小説家の苦悩

バブみ道日丿宮組

お題:小説の少数派 制限時間:15分

小説家の苦悩

 脳の動かし方は人間によって異なるのは当然のことだが理解してる人間はいない。実用的でもない。

 それは当たり前のことでそんなことを考えるくらいなら普通に生きてたほうがマシだから。この理論は小説を書くことも実は関係してる。

 筆が乗ると物語がすらすらと書ける人もいるらしいが、私は違う。

 脳を動かして書く。

 こう書くとまるで他人が脳を使ってないように見えるかもしれないがそうであってそうじゃない。使い方がそもそも異なる。

 脳を使うといっても何千通り、何万通りの動かし方がある。

「むむむ」

 私はその何万通りの1つ。つまらないことを書く小説家。

「唸ってないではやく書いてくださいね」

「わかってる。面白くないことを書くのは神経を使うから」

 ため息が聞こえた。

 かれこれ原稿は一週間も遅れてる。

「先生のは面白いですよ。どうしてそんなふうに思うのかさっぱりです」

「そこは感性の違いってやつだろう。私がデビューしたのも適当に書いてたのを親が勝手に応募したくらいだし」

 おかげで毎日つまらないことを考えなければいけなくなった。

 収入があるぶん、親が何も言ってこないのはいい。

 が。

 それだけのために毎日苦悩するのは面倒。

「良い親御さんじゃないですか。こうして名作が誕生したんですから」

 名作か……。確かに売上はなんかのランキングに入ってドラマ化、アニメ化とよくわからない方向へ進んでる。

「名作が本当に名作だったら私も何も文句は言わないさ。自分でつまらない、面白くないものを書いて出してるのに評価されるのが気に入らないんだ」

「じゃぁ先生が面白い作品を書いてみればいいじゃないですか?」

 それができれば苦労はしない。

 生まれてこの方面白いと思ったことはない。この世をつまらないとさえ思うくらいにわりとどうでもいい感じに生きてきた。

 今更面白いことをしろといっても何がそうなのかわからない。

 探そうという気もないし、作ろうという気もないし、治そうという気もない。

「面白いのが仮に書けたとしてそれが一般的に面白いものなのかはわからないぞ」

「わかってます。そうだ。先生今日は病院の日ですよ」

 カレンダーに目をやるとたしかに通院の日だった。

「車出しますから用意してくださいね」

 編集は立ち上がり、外へと出ていった。

「……はぁ」

 私は着替えると、松葉杖を使い後を追った。

 

 人生が楽しいと思えたら、この病気も治るんだろうか……?

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