ポスアポアンソロジー~未来分岐~
辰
第1話
えーまいど馬鹿馬鹿しい話をひとつ。ときは江戸の末期黒船来襲と日本国民全員が震え上がったそんなときでありました。
てえへんだてえへんだとヨッチャンの家に駆け込んできたハッチャンだった。どうしたまたいつものてえへんだがはじまった。この前は近所の川が氾濫して村の半分が流されたっててえへんだって言ってたばかりじゃないか。そりゃガチもんのてえへんだだろ。今回はもっと大変なんだ。メリケン南蛮人のペリーだかペルーだかが日本の文明を滅ぼしにやって来るって話だ。ちょっと待ってくれよ、そこはハッキリしてくれないと将来いろんな試験に受からなくなるぞ。なんでも欧米にはモネとかマネとか似たような名前が多くいるからな。ペリーなんだかペルーなんだかハッキリしろい。南蛮人はみんな同じ顔に見えて名前も国名も似たようなのばかりで覚えにくくてしゃーない、みんな帰化して日本の名前にしたらいいんじゃ、ペリ之助っていうのはどうじゃ。ハッチャンいくら帰化したって日本風の名前になるわけじゃないんだ。闘莉王とか呂比須とか漢字があてられるだけじゃ。その呂比須ってのはロピスって読むんか。これがまた不憫なことでロペスというんじゃ。ソレ誰か指摘しなかったんか。どうせわからるまいと適当にしてしまったんじゃ。蹴球協会もいいかげんなところだ。いやペリーは日本に帰化しないから。奴ら南蛮人は日本の文明を滅ぼしに来たんだ。滅びのおまじないってこれか。バルス。目がぁ目がぁあああ。ってヨッチャン、その言葉はこんな序盤で言っちゃなんねえやつだって。しかもそれは三分間待ってもらってから言うもんだ。突然言っちゃダメなやつだあソレ。バルスって言うのに三分も待ってもらわなくちゃいけないのか。常識だそんなの。しかもそんときゃルールール、ルルルーって歌わなくちゃなんねえ。はあ、滅びのおまじない言うのにもいろいろと準備が必要なんだな。だいたいだな、そんな言葉はまず空から女の子が降ってこないとしちゃいけない話なんだって。白ヒゲのおじさんに怒られるぞ。それもヨッチャンはいつもモタモタしちゃっててさ、その滅びのおまじないは家から外出る準備だって四十秒で支度しないと言う資格もないんだよ。なんだあ、バルス言うのに三分もかかっていいのに外でる支度は四十秒ですませないといけないのか。それほどペリーは恐ろしいやつなんだってばよ。そんな殿様よりも恐ろしい者なのか。殿様なんて少しも恐ろしくもなかろうよ、年貢だってオラたちバレないように隠し田でしっかりたんまり儲けているだろうて。年貢米なんてみんなテキトーにつくっているだろ、あのバカ殿は味の違いもわかりゃーしないんだから。隠し田の米はいいデキだ。オラ今年は隠し田で儲けた金で孫に、にんてんどーすぅぃっちりんぐふぃっとあどべんちゅあを、こさえてやっただよ。ついにお前さんもこさえたがか、孫も喜んだじゃろうて。お前さんもすぅぃっちの動物之森を孫と楽しんでいたと話していたじゃろが。いやあ照れるべ。だけどその文明が滅びてしまうとだな、にんてんどーすぅぃっちをやるエレキテルも使えなくなってしまうって話だ。そりゃマジでてえへんだ、孫が泣いてしまう。そうだエレキテルが使えなくなったら夜になったら寝るしか他やることなくなるがや。てえへんだ。ペリー許せねえな。
そう話していると襖がすらっと開けられてペリーがそこに現れた。なななななんでこんなド田舎の百姓の家に突然ペリーが来るとや。うわあうわあ。「治外法権、関税自主権ナシ」ひゃあ、なんごた南蛮人はなにやら外国語を話しよる。なんだべ、ツグアホースケン、ケンズエーズスケナスってのは。わかんねーから外国語なんだろ。オラたちもわかる外国語でなんか怒っている南蛮人をご機嫌にさせるしかねーって。成る程。えーケチャップケチャップ。いいぞいいぞ、トマトソース、あーカルパッチョ。「ナメテンノカコラア」うわーますます怒った。なんか言っちゃいけない外国語を言ってしまったのかもしれねえ。
そう言うや否やペリーは口を大きく開けたと思ったらふたりを丸呑みしてしまった。その勢いでペリーは日本人すべてを全部飲み込んでしまった。もうその味に病みつきになってしまったペリーはアメリカ人も全員、もう地球上の人類をすべて飲み込んでいってしまったって話だ。え、なんだってこんなムチャクチャなオチがあるかいって。いえワタシもね、こういう噺をしながら客席からはクスリと笑いのひとつも起こらないんでね。やけのやんぱち。というより客がひとりもいないっていうね。確かに照明もなにひとつなくてね。いやこれが笑えない話なんですが、実はワタシ、人類最後の生き残りなんですわ。
おあとがよろしいようで。
ポスアポアンソロジー~未来分岐~ 辰 @tatsu55555
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