異世界転移Re:START

橋本しら子

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 早朝から満員電車に揺られ、壁のようにそびえ立つ書類を片付け、帰る頃には終電ギリギリの毎日。

 それが狩野尾 かのお けい28歳の日常だ。


「もう日付変わってるし、明日も仕事だし……」


 誰もいないワンルームの小さな部屋で螢は一人ごちる。

 帰宅してからすぐにシャワーを浴びてソファーに身を投げるのは、もはや数年単位でのルーティンワークとなっている。

 このまま寝落ちて目覚ましに起され、同じ日々を繰り返すまでがワンセットだ。昔はベッドもあったのだが、あまりにも使用頻度が低すぎて友人に譲ってしまった。


「無限ループみたいだなぁ」


 繰り返される同じ日々。それに気づいたところで、そのループから抜け出す術は螢にはない。いや、正確にはあるのだろう。とても簡単に抜け出す方法が。

 ただ、それをするにはあまりにもリスキーなだけ。螢には踏み切る勇気はない。


「もっと若けりゃ、思い切れたのかも」


 世間的にはまだ若い方なのだとは客観的に見ても理解している。ただ、世の中がそこまで甘くはないだけだ。

 次がすぐにみつかるよと根拠のない気休めを言われても、そんな簡単にいけばこの世界誰も彼もがもっと暮らしやすい。

 今日はやけにネガティブ思考が加速しているなと、螢は自嘲気味に笑う。やはり日々の疲れが出ているのだろう。今度絶対に有休を取ろう。そう心に強く決めたのはいい……それと同時に、いつもよりも強い睡魔に襲われる。


「そんなに……疲れてんのか……」


 抗い難いと言うよりは、抗うことすら出来ない強烈な眠気。螢の瞼も重力には逆らえず、徐々に視界はブラックアウトしていった。


(また、明日もいつもどおり)


 沈んでいく意識の片隅でそんなことを考えていると、どこかで誰かに呼ばれる声が聞こえた。

 しかし、それが誰なのか知る由もなく、最後の思考も暗闇へと飲み込まれていった。



 文字通り、暗闇へ……思考も、身体も飲み込まれるように消えてしまう。

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