そのマウンドに願いを
夢伊(ムイ)
第1話 123番目の女
なんでだろう、あまり何も感じない。
緊張も、高揚感も、普通なら感じるだろうと自分が一番思っていたのに。
「さあ、それでは最後に登場するのはこの選手です!」
この舞台に、あの子と立つと約束したあの日からもう7年、あの子は今この瞬間の私の事をどう思っているだろうか。
裏切られた、悔しい、妬ましい、そんなことを思っているだろうか。
でも、今はそれでいい。
そう思っていてほしい。
「高校での公式戦登板数はわずかに1回! どんな選手なのか、他球団のプロスカウトが存在すら知らなかった隠し玉中の隠し玉!」
私、頑張るよ。
あなたの全てを背負って、あなたの過去を背負って、あなたのために。
勢いよく階段を駆け上がり、ベンチから飛び出す。
『ドラフト最終「123番目」で指名! 2020年育成ドラフト10位! 白星 あかり! 投手! 背番号010! 県立二条東高校!』
アナウンスがされると、場内から地響きのような歓声が響く。
こんな歓声は聞いたことがない、耳がおかしくなると思った。
マウンドを横切り、マスコットキャラクター、監督、そして私と同じように指名された選手達と流れるようにハイタッチをかわし、自分のポジションに立つ。
ベンチを出てから今まで少しうつむきながら走っていたから気にならなかったのか、しっかりと前を見た瞬間、無数のフラッシュに視界が白くなる。
「以上、全ての新入団選手が揃いました! 皆様盛大な拍手をお願いします!」
「バチバチバチ」と手持ち花火のボリュームをマックスにしたような炸裂音が私達に全方位から注がれる。
その中にあるのは「期待」「感動」「激励」様々な感情だ。
でも、だからこそ悔しい、私なんかより、もっともっとこの舞台に立つ資格があった子がいるのに。
だからこそ、私は決意する。
「絶対に、私がもう一度、あなたをこのマウンドに立たせてみせるから」
これは、女子プロ野球の世界に飛び込んだ、女の子達の物語である。
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