11  乾杯


「あれ、穂波じゃん」冬休みに地元の居酒屋でお酒を飲んでいた時だった。

背の高い二重で色黒の男性に声をかけられて私はわかりやすくビクッとしてしまった。


あれ、でもこの見たことある顔、筋肉のついた腕、清潔感があり短く刈りそろえられた爽やかなショートヘア。

私は酔った頭の中で必死に考える、、、。

「三坂、くん?」

「そうそう、俺だよ、穂波は相変わらず可愛いねえ」


そうだ思い出した、私が以前やらかした時に責め立ててきて、怖くなってブロックした三坂くんだ。

なんか声が妙に優しい。

「こんにちは、すいませんいきなり声をかけてしまって、穂波の高校時代の親友です」

同席していた私の友人のさっちゃんに気さくに声をかける。


親友…、そうだったっけ。大学時代私を責め立てていた攻撃的な彼の挙動は鳴りを潜め、丸くなったかのようだった。

しかしさっちゃんに挨拶している彼の笑顔はどこか高校時代を思い出すもので…。

私は思わず、「そうそう、私たち親友なんだよね」なんて強気に握手して見せる。

その後彼とは少しのやりとりをして、

「俺も向こうで飲んでてさ、この後解散するから、もし時間があったらもう一軒付き合ってくれない?」

そういって爽やかに去っていった。


「誰よあのイケメン、元彼?」そう聞いてきたのはこちら大学からの親友、さっちゃん。

今日は私の地元の焼き鳥が美味しい居酒屋で無事二人の就職兼そろそろ大学卒業祝いをしていたのだが、一気に酔いが覚めてしまった。


「元彼じゃなくて親友だってば!」思わず少し大きな声で私は言う。

「何よ、なんか意味深じゃん、男っけないと思っていたけどあんたもやることやってんのね〜」

さっちゃんは何かを誤解したままをナンコツ唐揚げをつまむ。

私はジョッキに三分の一ほど残ったレモンサワーを一気に飲み干して、彼と私の出会い、高校時代について釈明を始めた。



……



「と言うわけでえ、それまですこーし意識していた彼のことは大学時代の一件以降、SNS関係含めて全てブロックしていたのです。」

30分ほど丁寧に語った内容を黙って聞いてくれていたさっちゃんはうなづきながら「青春だわあ」といって梅酒サワーのおかわりを頼んだ。

青春の二文字で片付けるなっ。


「でも、なんであんな気さくに声をかけてくれたんだろうね」私は疑問に思った。

「そんなの決まってるじゃない、丸くなったのよ、彼も、きっと穂波も」

さっちゃんはそう言いながら梅酒サワーを受け取り、そして言った。

「大体、その演劇のミスの話だって3年前のことでしょ、もう怒ってないわよ。むしろブロックしたら彼からの謝罪文すら届かないのよ」

「確かに」

「むしろ怒りすぎてごめんってきたのかもしれないし」

「…すみません」

「私じゃなくて彼に謝ってきたら、積もる話もあるみたいだし」

席を立とうとしたさっちゃんを私は引き留める

「ええ、ちょっと待ってさっちゃん、一緒にいてよう」

「はいはい、今日だけだからね」

さっちゃんは相変わらず私のお願いに弱い。そういうとこ好き。


そんなわけで二軒目は、餃子が看板メニューの若者向け居酒屋に来ていた。この店のレモンサワーは美味い。


メンバーは私とさっちゃんと三坂くん。二人は早くも打ち解けた様子だ。ワイワイしながらメニュー表を見ている。ちなみにここの中華はうまい。特に青椒肉絲。


ビール1つとレモンサワー2つが届いた席で乾杯したあと、私は切り出す、


「あの、それでね、最後に会った時のこと覚えてる?」

「ああ、あの演劇を見にいった時かあ、あん時はきつく言いすぎてごめんなあ」

さっちゃんのいった通り私の考えすぎだったのかもしれない。


「私もあの時は本当にごめん。それでね、それからきつく怒られたのが怖くなって、LINEとかSNSを全部ブロックしてたの。ごめん」

「ああ、そんな気がしとったよ、あのあとこっちから連絡取ろうとしても全く繋がらないからさ。まあ、今日が仲直りの日ってことで、乾杯〜」

「「「「乾杯〜」」」


3人で二人の高校時代やさっちゃんと私の出会いの話、彼の大学のバスケの話をしていると思った以上に盛り上がった。

皆でワイワイ飲んで、騒いで気がつけば23時、さっちゃんはそろそろ時間なので、と言うので二人で駅まで見送りに行った。


「また飲もうね〜今日は楽しかったよありがとうよ〜」そういって少しふらつきながら彼女は去って行った。

少しして振動を感じLINEを見ると『ふぁいと♡』とメッセージが送られてきていた。


二人で並んでもうこの時間は閉まっている駅前の商店街を歩いていると、なんだか高校時代が遠い昔のことのように感じられた。

あの日、激しく意見をぶつけ合ったり、お台場の観覧車に乗ったことも、確かに今では勝手に青春と言う二文字で片付いてしまっている。

私はお酒に強い方だがまとまらない頭でなんて彼に声をかけようか、と迷っていた。


彼も同じらしい。私たちはなぜか目を合わせた。お互い酔っているらしかった、彼の綺麗な二重がよくわかる。


「穂波、もう一度だけ俺と会ってくれない?」


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