カルーセル

あめこ

1  カルーセル


「カルーセルだよっ」


穂波ホナミは言った。


「メリーゴーランドじゃないの?」

「メリーゴーランドじゃなくてカルーセルっていうの。メリーゴーランドは時計回りでしょ。カルーセルは反時計回りなの」


アラジンのエリアで「キャラバンカルーセルに乗りたい!」と穂波が笑顔で頼んできた時のことだ。


そんな些細なこと今までたいして気にも留めなかったが、自慢げに語る彼女の様子が可愛らしくて、僕はにやけてしまう。

ああ、この時が終わらなければいいのに。この一瞬が、この時間が、永遠に続けばいいのに。


そんな月並みなことを思いながら、日が暮れてより美しく照らされていくシーで、キャラバンカルーセルは次第にスピードをあげていく。

周囲の景色が次第にぼやけていく。横に座っている彼女の輪郭だけが、この世界ではっきりと形を保っている。


反時計回りは右回りか、そんなことをぼんやりと考えながら、僕は小さな声で「好きだよ」とつぶやく。


赤と黄色でライトアップされたカルーセルは、徐々に、スピードを上げていく。

僕は最初で最後のディズニーを、ぼやけていく幸せな思い出を、目に焼き付ける。



思えば僕たちは初めから、お互い逆方向に向かっていた。


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