私はだれ?

黒犬

一人の夏に空は

 白い霧はどこまでも続く、空に浮かぶ雲は空高く、霧散する。

 けれど静かな場所なんてどこにもない。いつも私の隣には音があった。雑音があった。それら全てがうるさい。

 あれ? ここはどこ、暗い。

 「!まだ息が…鳥、ぃ、さ、、ん」

 音がコマ送りみたいにゆっくり聞こえる。

 何も見えない。目が開かない。開きたくない。

 「生かして……え!」 え?

 「お姉ちゃん!!」 は?

 やめてよ。「早く!!今ならまだ!」やめて。

 「今助けるから」目を開けたくないの。やめて。

 わたしはいまおきたくない!

 いきたくない。やめて。

 「戻って」いやだ!!

 「生きて!」いやだ!!

 何も考えられないのに言葉だけが滝のように出てきた。

 目はあけられない。あけたくないからだ。

 「目を開けて!!」ごめんね。わたしのわがままで迷惑かけてるね。

 「今頑張らないでどうするんだ!!」うるさい。勝手にわたしをがんばらせるな。

 

 「ッ!?」光が目に入って網膜を焼く。だれだ!

 「良かった!生きてるぞ!」なにがよかった?

 

 『想像力の産物だもの。絶望も希望も夢も愛情も、』

  脳内に言葉が響いてくる。だれだ。

 『寂寥も』

  あ、これはわたしだ。

  でもきらい。こういうのきらい。

  わたしはもうこういう現実から逃げて逃げて逃げてへんな感傷に浸るようなことばはだいっきらい!!


  創作みたいなことは嫌い。もう嫌い。

  受け付けない。もう食べ過ぎて飽きてしまった。

  現実を見る事が必要だった。

  なのに、なんで今更そんなものに頼る頼ろうとする、

  わたし!!!

  「頼ってもいいんだよ。想像力に」

  「また自分との対話。飽きもしないね。馬鹿だね。」

  「馬鹿で良いんだよ。」

  「いいわけあるか!!そのせいでわたしがどれだけ!!」

  「想像力を捨てるという事は、幸せも、人を思う気持ちも捨てるという事に他ならないよ。わたし。」

  「知った事か!わたしなんてどうせ、どうせなあ!人に頼ってばっかで!頼らなくてもよくなってもまだ、、まだ一人じゃ生きていけない、よわむしだ!」

  「だから、?確かに君はこっぱずかしいことをやった。SNSに変な文章を書いたり、人の同情を誘うような事をわざと書いたり、自殺をほのめかすような事も書いた」

 「そうだ!そうだから私はだめなんだ。周りの人に迷惑かけてばかりで!それでやさしいひとからやさしい気持ちをもらっても無意味なんだ」

 「無意味?ちがうね。無意味なんてものはないよ、わたし」

 「ちがうのはそっちのほうだよ。意味の無いことだらけだ、わたしのじんせいなんて」

 「うん。だから君は言ったよね、」

 「そうだ。だから言った。」

 「「だからこれからの人生で無意味な事を意味あることに変えるんだ」」

 「立派な事だと思うよ」

 「立派なんかじゃない口だけだ」

 「そうだね。簡単じゃないもの。」

 「分かってるんだよ。お前の言葉はわたしのことばだから、だからお前のやさしさに根拠なんて無いことに」

 「そうだね、根拠なんてない」

 「結局自分で自分の事を甘やかしてるだけだ、無条件で愛して欲しいだけだ」

 「それの何がおかしいのかな」

 「おかしいさ!周りの大人は、同い年かそこらの人間はもっとまともだ!わたしはもっと大人にならないといけないんだ。走って大人にならないといけないんだ!」

 「そんなことを考えないといけないくらい君は悩んだんじゃない。」

 「うるさいうるさい! 認めてもらったから何なんだ! そりゃあさあ」

 思い返す。楽しい思い出はたくさんあった。

 「認めてもらった事ばかりだ。私は認めてもらってばっかだ。容姿について好きな人から褒められたことが嬉しかった。その人のことは本気で好きだったけどでも付き合いたいとかそんなんじゃなくて、ただ、嬉しかった。自分を認めてくれて嬉しかった」

 「そうだね……」

 「無条件でやさしさをくれた人はたくさんいた!わたしのせいだ。わたしがそんなオーラを周りに出していたから、『助かるつもりが無いのに助けて』なんて馬鹿な事を考えていたから!」

 「答えはもう出ているじゃないか」

 「だからその口調止めろって言ってるだろ!小説みたいな話し方もアニメみたいな、なんかいやなんだもう現実に戻れ!!」

 「戻るのは君だよ」

 

 ぷつりと音が途切れる。夢だ。今のも。

 また耳元で音がする。これは現実か。

 「ごめんね」謝らないでよ。お母さん。

 「なんでこうなった」私のせいだよ。

 

 やり直せる?またやり直せる?

 頭の中の選択肢が浮かんだ。

 やり直せるのならやり直したいとも。でも、

 今からじゃないと。

 

 寂しい。

 耳元で親の声がしているのに、寂しい。

 孤独を煮詰めたような寂寥。

 一人じゃないのにずっと寂寥を感じている。

 目覚めたくない。さながら鬱状態の時みたく。


 恥ずかしいんだ。これまでやってきたことが。失敗が。

 その先が思い浮かばない。これは疲れのせいか?

 

 「泣いていいんだよ。ただ、君は今成長しているさなかなんだから」

 「いいわけだ、周りの人の迷惑を考えてない自分勝手だ」

 「でも、私はわたし自身についてそう思っているじゃない、今現に」

 「そう思ってほしい、そうとらえてほしい。」

 「でしょう、そうでしょう。君は今20代になるかならないかくらいの年齢でしかないじゃないか。まだまだこれからじゃないか」

 「わたしはわたしの頭の中は、こんなもんだ。いつまでたってもガキのままだ」

 「そうだろうね、まだ君はクソガキだ」

 「もう少し、もう少し、、」

 「分かってるんだろう。君はまだやれるんだよ」

 「分かってるよ、私は私の話を聞いて欲しいだけなんだ」

 「じゃあどうしたらいいかな」

 「それを考え続けてきたんだ、わたしは」

 

 答え何かなかったよ。ずっと。

 ずっと死にたかったのに、いつからか死にたいとは思わなくなった。

 その代わり現実に起因してよく精神を病むだけになった。

 それだけじゃなくて、ちゃんと精神的に成長するようにもなった。

 

 分かってる。分かってる。

 「頭の中のごちゃごちゃは晴れた?」 

 「……」

 「なに?」 

 「いい加減自分との対話なんか止めなよ。これは追い詰められた人間がやる事だ」

 「追い詰められてないと?わたしは」

 「そう思うなんてばかだもん」

 「そう。」


  消えた。


  ☆☆☆


  「いやあ良かった。ちゃんと意識が戻ったね!」 

  背中をばしっと叩かれた。痛い。

  「痛い」

  「ああごめん! でも君も変わったな」

  「そう?」

  「おうとも!」

   


  まあ、そうなら、

  それでもいいか。

  これはこどものわるふざけ。

  大人の争いなんかじゃない。

  ただの、寂しがりのこどものわるふざけだ。

  

  夏の空は、どこまでも広い、なんてことは無くて、高層ビルや建物に邪魔されて見える空はとても限られていた。

  そんなものなのかもしれない。

  意味が無い物なんてないと昔母親は言った。でも、そんなことはない。

  意味が無い物ばかりだ。

  どこまでも続く空なんてものは無い。見える空はいつもどこか狭い。


  そんなものだ。

  そんなことを、わたしは考えた。

   

  (終わり)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私はだれ? 黒犬 @82700041209

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る