淡色の朝
青山えむ
第1話 秘密
朝、通勤ラッシュを避けるために私は一時間ほど早めに出社する。始業時間の朝八時までの時間を休憩室で過ごす。その間ずっと、音楽を聴く。
私の勤める会社はこの辺では一番大きくて社員も大勢いる。近くに工場が三棟ある。そのなかの一棟で私は働いていた。
七時前には会社の駐車場に着く。
駐車場から歩いて会社へ向かう。もう初夏といえばいいのだろうか、太陽が眩しい。紫外線が気になるので日傘を差す。
七時には何人かの社員が会社の入り口を通る。ラッシュを嫌う人たちだ。警備員にあいさつをして会社構内を歩く。入口から社員通用口までは一分ほど歩く。
ようやく通用口にたどり着き、セキュリティカードをかざして社内に入る。
階段を上り二階に向かう。休憩室と書かれた部屋でこれから五十分ほど過ごす。
休憩室にはテーブルが四つほど離れて置いてある。長椅子は六つほどあり、壁際には予備の椅子が積まれている。
みんな距離をとってほうぼうに座る。電車で座る時もそうだ。どうして一つ空けて座るんだろうって思っていた。
大人になってから、こんなに空いているのに隣に座る人、のほうがよっぽど怖いことに気づいた。
私の他にも時間をつぶしている人が何人かいる。本を読んでいる人、スマホを見ている人、缶コーヒーを飲んでボーッとしている人。
このなかでイヤホンをつけているのは私だけだった。スマホに入っている音楽を聴く。今日はシャッフル再生にした。歌手を選ぶ気分じゃなかった。
去年音楽チャートを
彼は今年でデビュー五周年らしいが、二年ほど前にCMの曲がヒットしたのをきっかけに大人気歌手になった。
新曲はドラマの主題歌だった。私も見ている。
久しぶりにラブソングを作ったとコメントしていた気がする。ドラマの内容にリンクしていて、週を追うごとに曲が映えてくる。
曲がドラマの良さをアップさせているのか、ドラマが土台にあるから曲が映えるのか。たぶん両方なんだろうけれども、私は前者寄りだ。
この曲が主題歌じゃなかったらここまでドラマは盛り上がらないだろうと思う。
曲の内容は好きだった人と離れてしまった、きっともう会うことはないというニュアンス。もしかして死んでしまったのかもしれない。好きだった人への恋心はずっと忘れられない、たぶんそんな意味だと思う。
歌声が心に響く、歌詞も響く。淡いメロディも。もう会えない人、伴奏を聴いただけでそんな感情が沸く。この曲で思い出す、あの日のこと。
私には秘密がある。あれは三年前のこと。
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