第2話

「おい、彩葉。そないなところで何しとんねん?」


 午後十一時、僅かな光りさえない闇の中に続く路地裏で妖魔を探して歩く彩葉の後ろから声を掛ける者がいた。しかし、彩葉は振り向かずとも声の主が分かった様である。


鴉丸からすまる……なんであんたが?姉さんに頼まれた?」


 彩葉の声に少し苛立ちの色が見える。だが、鴉丸はそんなの知った事かと言う素振りで、彩葉へと近付いてくる。


「ちゃうわ、万葉はなんも言っとらん。うちが勝手に見にきただけや」


 七歳ほどの背丈しかない鴉丸が彩葉の一歩前まで歩み寄り彩葉を見上げながら言った。


「あのな……闇雲にほっつき歩いてん妖魔は出てこんで?」


「なんで分かるの?」


「見たからや……あの妖魔が出る瞬間を」


「見たならなんで討伐せずに……そんなに強い妖魔なの?」


「ちゃう……何度か見とったが人を襲わんやったんや……やからて討伐せんやったわけやない。万葉はこの任務は彩葉……われがやらにゃあかん言うて、手ぇ引いたんや」


 そう言うと鴉丸がじろりと彩葉を睨む様に見ている。


「なんで私が討伐しなくちゃならないのかよく分からないけど……姉さんが手を引いた妖魔を討伐出来るなら……」


 彩葉の視線は鴉丸の頭を通り越し、その奥にある闇の中を睨みつけている。そんな彩葉を見ている鴉丸が小さな溜息を一つついた。


「そんなんやからやで……」


 鴉丸がぼそっと呟いた言葉は彩葉の耳には届いていない。


「まぁ……どちらにせよ、われ一人じゃ無理や。骨折り損の何とか儲けってやつで終わるで」


「なら、その妖魔を見つける方法を教えてっ!!」


 焦りからか鴉丸の肩を強く握った彩葉がゆさゆさと前後に揺さぶっている。頭が前後にかくかくと揺れている鴉丸。


「やめぇっ!!うちは赤べこの人形ちゃうぞっ!!首が取れたらどないすんねんなっ!!」


 その言葉で我に返った彩葉が鴉丸の肩から手を離す。鴉丸は首と肩を擦りながら恨めしそうな目で彩葉を見ている。


「焦んなや……焦ってん、出ぇもんは出ん。まずは場所変えよ」


 そう言うと鴉丸は彩葉を置いてさっさと歩きだしている。その後を追うようについて行く彩葉。


 路地裏は相変わらず先も分からぬ漆黒の闇。そんな中を適当に歩いている様に見える鴉丸。そして、ポイントポイントで立ち止まると、印を結び、目を閉じ、辺りの気配を探る為に集中している。


 それを何度か繰り返した時である。


「……見つけたで」


 そう鴉丸が結んでいた印を解き、閉じていた瞼を静かに開いた。

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