長距離バッテリー
熊山賢二
本編
とある電機メーカーが革新的な新型バッテリーを発売した。
それは驚くほどの小型かつ軽量で、容量も従来のバッテリーを大きく上回るのだ。今までは、バッテリーといえばリチウムイオンバッテリーであったが、新型バッテリーは鉛を使っているのだ。本来、鉛を使った鉛バッテリーは重くて容量も大したことはないが安価であり、今でもガソリン車のバッテリーとして使われていた。リチウムイオンバッテリーは容量が大きく、電気自動車やスマートフォンに搭載されている。
リチウムは、実は地球上に多く存在されるが取り出すことが困難で、単体として存在していない。有用に使えるリチウムは、レアメタルとして採掘できる場所が石油のように限られていて日本ではとれないのだ。しかも地球の地殻成分の0.002%しか存在せず、とても潤沢にある資源とはいえない。
すでに時代遅れともいえるような鉛を使ったもので、リチウムイオンバッテリーなどの既存のバッテリーをしのぐ性能を持った新型バッテリーは世界に衝撃を与えた。
そして、さらにその性能が世間に広がる事件があった。
何十年かに一度の大寒波は到来した大雪の日だ。新型バッテリーを搭載した電気自動が雪の影響で立ち往生してしまい、さらに電池がきれてしまっていた。暖房をつけることもできず、近くには避難できる場所はない。命が危険にさらされていた。その時、新型バッテリーの隠された機能が起動した。バッテリーの残りの寿命を消費することによって、外部からの供給無しで一度だけフル充電されるというものだった。その新機能は多少の熱を発するが高温と呼べるほどのものではなく、しかし凍った車体を温めてくれもしていた。この事件を皮切りに新型バッテリーはさらに普及が進み、全てのバッテリーは新型バッテリーに置き換わった。
新型バッテリーには、さらにもう一つ隠された機能があった。新型バッテリーを制作しているメーカーでも、限られた幹部しか知らない。世の中には知られていない、知られてはいけない秘密の機能が。
新型バッテリーには盗聴機能があった。そして、そのデータは地球のどこにあっても、本社にリアルタイムで送信されている。解体しても盗聴をしている機器は絶対に見つからない。新型バッテリーに使われている全てのパーツが、決められた手順と特殊な方法で組み立てられることによって奇跡的に発揮されるものだからだ。
どんなに離れていても、どれほど長距離だとしても、一切のノイズもなく音声データが届けられることから、この機能を知る幹部たちの間ではこの新型バッテリーのことを長距離バッテリーと呼んでいる。
長距離バッテリーは地球上のどこにでもある。いずれは宇宙船にまでも搭載され、その距離を伸ばしていくだろう。
長距離バッテリー 熊山賢二 @kumayamakenji
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