美人な先輩とお近づきになれるとは最高です!
「何を読んでいるの?」
後ろから綺麗な女性の声が聞こえてきた。静かに己の知識を広げている最中に話しかけられ些か不機嫌になってしまう。無視しても良かったが、俺に話しかける女性はこの学校にいなかったことを思い出し、興味が惹かれた。だから俺はその声の方へと視線を動かした。
思えばそれが俺、
自分の身長よりは低いがそれでも女性としては高身長に分類されるだろう。しかしそれはその女性のイメージからしてもとても良く合っていた。髪も実に綺麗な青のロングであった。その時点で俊としてはかなりポイントが高い。そしてネクタイの色から察するに一つ年上の3年生だと言うことが推測できた。素晴らしい、年上として女性として求める落ち着いた雰囲気を纏っていることは最高と言って良いだろう。言葉遣いも、丁寧だが、親しみやすい口調はとても好感が持てた。端的に言って俺にとって非常にタイプの女性が話しかけてきたのである。
「えっと、ノンフィクション小説を……、結構面白そうだったので」
正直な話、俺は読書の最中仲が良い友人ならともかく、それ以外の人間に話しかけられるのは嫌いである。ゆえにそのような輩に対してはまず話しかけるなオーラを纏いながら対応することが大体である。尤もそのせいでクラスでは少々浮いてしまっているのだが……
しかしそれは原則である。原則ということは例外も当然ながら存在する。それが今回のような場合である。いくら読書の邪魔をされたとはいえ、それが自分の好みのタイプであるのだから正直な話、むしろありがとうと言いたくなるほどで、怒りなど全く湧いてこない。
むしろ、これほど美人な先輩に話しかけられて嬉しくない人間がいるだろうか?いや、いないだろう誰しも好みのタイプなら話しかけてみたいと思うものだ。それが向こうから来たのだからそれはもう最高ではないか!
話しかけられた瞬間は、鬱陶しいと思ったのは内緒である。
「本が好きなの?御免なさい邪魔をしてしまったかしら?」
「いえ、全くそのようなことをないですよ」
自分が出来る最大限の笑顔で、そのように答える。それに安心したのかホッとした表情で先輩は胸をなでおろす。
「そうよかった……本来読書中に話しかけるのは迷惑なことだから、つい声をかけてしまったときはどうしようかと」
ニッコリと大変美しい笑顔でそのように述べる先輩に、俺は思わずやられてしまいそうになった。わかりやすく言えば顔が自分でも引くほど、崩壊しそうだったということだ。
「そう言えば自己紹介まだだったわね。わたしは
「御陵先輩ですか。俺は2年の土師ノ里俊といいます。土に、師匠の師、そしてノがきて、最後に里帰りの里が来て土師ノ里と言います。ちなみにこの苗字は他に見たことはありません」
最後に非常にどうでもいい情報を付け足しながら、俊も自己紹介をする。
「なるほど土師ノ里君か……確かに珍しい名前ね」
「それで、御陵先輩は何か俺に要件があるのですか?」
素朴な疑問を奏に投げかける。その問いに奏は首を横に振る。
「いえ、要件などは特にないの。ただ本当に興味本位に話しかけたの。私もよく本を読むからいつも放課後に読書読んでいる土師ノ里君が気になったの。以外と本を読む人って少ないじゃない?」
「確かに。あまり本を読んでいる人間は少ないかもしれないですね。俺は基本的にソロ行動が多く、放課後は時間ができる日が多いのと、本を読むことが昔から好きなので放課後はここで過ごそうと決めているんですよ」
「なるほど、あまり友達は多い方でない感じなのね……」
さらりとこの人は人によっては大変傷づくであろう言葉を投げかける。しかし俺は特に気にした様子も無かった。
「いえ少なくはないですよ。友達は二人いますし、その二人とは仲が良いと胸を張って言えます。そんな友達が二人もいる以上俺の主観的、また相対的に見てむしろ多いと思ってますよ」
「確かに。下手に何人もの人と仲が良いより本当に仲がいい人と過ごす方が大切だというのは私にもわかるわ。」
「えぇ、そうでしょう。俺の生活は実に充実したものですよ」
胸を張って誇らしげに語るが、しかしその体勢が故に今まで視線に入ってなかった学校司書の櫻井先生と目があった。その目は喧しいぞという非難の目であることに気がついた。図書室をよく利用している身分としては学校司書との付き合いは大事にしたいという理由と、また何より自身も読書家であまりこのような場で騒がしくするのはよろしくないというのはすごくよくわかることなので大人しく従うことにした。
「……少し騒がしくなっているようですので、一旦出ませんか?」
俺は御陵先輩にそのように提案をする。御陵先輩も図書室で騒ぐ気はないのでその提案に同意するように首を縦にふってくれた。
「それなら、空き教室に移動しましょう。ちょうど誰もこないところを知っているの」
御陵先輩は俺に微笑みながらそう提案した。
その笑顔は実に綺麗だなと思いながら、ステップでも踏みながら鼻歌を歌いたい気分だったが、それをすると御陵先輩にすごい勢いで引かれることになることぐらい分かっていたためやめておいた。
「凄まじく酷い顔だな。クラスメイトが引いているぞ。無論俺も引いている」
昨日の出来事を思い出していたら、凄まじく失礼なことを言ってくるクラスメイトが一人。そのクラスメイトの名は
「まぁまぁ、そういうことを言うもんじゃないぞ。わかるぜ、俊。確かにアニメの推しキャラの尊いシーンを思い出せば、そのような顔面にもなるさ。俺もよく崩壊する」
そのように頷きながらそう言う男は、
さてこの男は場合によっては名誉を侵害するのではと言う勘違いをしているために、一発かましてやろうかと思ったが、自分自身それなりにアニメを親しみ、かつ好みのヒロインが出てきて素晴らしいシーンを見ていたら、妹から「その顔面エグいよ」と素で返された経験を持つ手前、そしてその気持ちがわからなくもない以上それをはっきり否定できないのが辛いところであった。
「そんなんじゃねぇよ。ただ昨日の放課後少しいいことがあったからそれを思い出していたんだよ」
しかし今回にやけていたことは潤が考えているようなことでもなかったので、しっかりと弁明していく。
「ほぉ、それでは何があったのだ?」
蒼太は俊に問いかける。だから俺は仕方がないから昨日の出来事を教えてやることにした。
俺は学校司書の櫻井先生から睨まれた後、御陵先輩に連れられて空き教室が多くある校舎に行ったのだ。その校舎は一階には理科室があり、4階には音楽室そして3階に図書室があり、2階は少子化の影響もあるのかほとんど使用されていない場所であり、強いて言えば文化祭とかになれば何か作業する部屋として使われるぐらいの場所である。
そこには鍵が壊れており、誰でも出入りができる教室がある(おそらく直す必要性も費用もないのだろう)。そこで御陵先輩と面白い本など教え合ったりなどの会話を楽しんだのだ。
一通り昨日の放課後の出来事を説明すると、蒼太と潤はどうやら何か引っかかることがあったのか考え込んでいた。
「お前、いつの間にギャルゲーに手を出したんだ?俺は嬉しいぞ!」
どうやら潤はさらに不名誉な勘違いをしているようだ。
「しかも相当はまり込んでいるな……リアルとフィクションを分けることができていないのが何よりもの証拠だ……」
蒼太は蒼太で潤の意見に同意意見のようだ。
「あぁ、分かるぜその気持ち。いっとき自分はギャルゲーの世界にいるのではという気分になるのはよくあることだ。まぁすぐに現実に戻されて、絶望するだけさ!」
爽やかな笑顔で同類を見つけた喜びを表現する潤だが、あいにくそこまで拗らせているわけではないので明確に否定させてもらおう。
「いやゲームではないからな。リアルだよリアル。だから潤、貴様の握手に応じるつもりはない」
そう言って俺は差し出された潤の右手を払いのける、それなりの力を込めて明確な拒否の意思を込めてだ。
「リアルだと?貴様正気か?自分自身を陰キャだと公言し、口を開けば訳のわからんことを言い、初対面の女子と話せばだいたい十分後ぐらいには引かれているお前が?嘘をいうんじゃあない!」
なんともハッキリとした否定であった。そこまでハッキリと否定しなくてもいいじゃないかと思いたくもなる。しかしここで冷静に自己を分析してみると、蒼太がそう言いたくなる理由がわかるかもしれない。
さて俺の学校での生活を中心に人間関係を検討してみよう。ふむ、確かに俺は陰キャであると、ネタとは言えこいつらに公言をし、事実あまり陽キャみたいなやつとつるむとそれはもう疲れる傾向がある。しかし待ってほしい、俺は陰キャかもしれないが、決して喋るときにキョドッたりはしない。むしろ堂々と会話する方である。ゆえに俺の名誉のためにそのことは誤解しないでいただきたい。では初対面の女子と話すとどうなるか検討をしよう……。ふむなるほど、確かに小学生はともかく、少なくとも中学生からは少なくともうまく会話ができたという思い出は一つたりとも無い。なんなら心なしか物理的に距離を取られていたようにも思える。……確かに今のことを見ると蒼太がそう断言したことに対して一定の合理性は認められるな……誠残念ながらそういうことを言われても仕方ないのかもしれない。
だがしかし、俺は常に成長することを良しとする人間である。そのために客観的に分析し、トライアンドエラーしながらも、前に進む男である。無論それは初対面の女性との会話でも同じである。
「俺も成長したということさ」
だから一言そう誇らしげに言うのだ。
「そうか……、それならいいがな。ただおそらくお前は捻くれているところがあるからな。どうせすぐに引かれると思うがな」
「そう言うな。人と少々感性が異なるだけだ」
蒼太のからかいにいつものように返す。別にこれぐらいでお互い怒る間柄でもなければ、ガキでもないので気にすることはない。
「そんで、またその先輩と会うのか?」
「あぁ、その予定だな」
「え、なにそのラブコメ?……やはり高校二年生になれば、主人公になれるということか?」
潤はとてつもなく真剣な顔つきで、呟く。
「どうした?そんな螺子どころか、歯車が二、三個外れたような思考は?お前自身にもその可能性があるなどということを期待しているのか知らんが諦めろ。お前はせいぜいモブだよ。それか好きな人になぜか告白もしていないのに振られてしまいそれを同じモブに見られるという立場だ。いや、待てよ……そうするとモブよりは立場があるか……すまん訂正する。お前はモブよりは良い立ち位置にはなれるだろうな。いやすまなかった」
「そんな立ち位置ならモブの方がマシだと誰でも思うぞ!俺はそんな立ち位置ではないはずだ!多分、きっと!」
蒼太の発言に潤は一見明確に否定する。最後の方が怪しいが……
「しかし氷河期が終わり、雪解けが起こることに友人としては少しだが嬉しいところはあるな。尤もそれが儚く一瞬の夢であることが残念だがな」
「……」
どうやらこの男、蒼太は俺の青春の出来事は一瞬で終わりを告げることを本気で信じているらしい。もう少し友人なら俺のことを信じてくれてもいいのではないだろうか?まぁ、それは今までの俺の言動からの判断であろうから、自分自身に原因がそれなりの割合であるというのはなんとも否定しずらいところではあるが……
「蒼太、それは言い過ぎだぜ。考えてみろ?俊は、成績も常に10位前後にいてお前より少し頭が良く、お前ほどではないにしろ運動神経だっていいんだぜ?そして家事もそれなりにこなす。結構モテる要素はあるぜ」
蒼太の発言を聞いて、潤が俊の援護に入った。しかし―――
「それほどモテる要素があるのにも関わらず、今までモテてこなかったのはなぜだ?しかも引かれて距離を取られることもしばしばだ。ということはそれ以上に性格が相当アレだということだとおもわないのか?」
「……確かに」
潤は蒼太の反撃を受け、一瞬で白旗を上げ向こうは寝返る。
「もう少し頑張って擁護してくれない?流石にそこまで一瞬だと傷つくぞ」
「すまん、だがどうしてもそれを否定する方法がないんだ!」
心底悔しそうに潤は俺にそう告げる。その顔は本気で否定する材料を持ち合わせていないのだろうということを理解するには十分であった。
そこまで性格がアレなのか俺は?
多少自分自身の性格が相対的に見て異なることは理解できるが、そこまで本気で問題視されるとは思ってなかったから割とショックである。
「ふっ、まぁお前が悪いやつではないことは理解しているし、それなりに付き合えば一緒にいると楽しいから、もしそれなりに交流していったら、仲はむしろ深まっていくんじゃないか?俺は保障できるか知らんが」
蒼太は最後の最後でフォローを入れる。まぁこいつ自身も頻繁に口悪く攻撃してくるが、それが冗談であり、しっかり友人関係を築くための思いやりというものを持ち合わせている。無論潤もだ。だからこいつらと友人を続けている。
「そこは、しっかり俺が保障してやるぜ!ニヤリみたいな感じのほうがグッとくるぞ」
「それは無理だな。そんなことを言ってみろ、俺もお前らも全員鳥肌ものだぞ」
「確かに」
こういう関係はいつまでも続けたいものだ。下手に友達を多く作る以上にとても大切なものであると俺は確信を持って言える。
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