第39話「たしかにのびのびできそう」

 服のことなどがあるので、そのうちリチャードたちから連絡があるだろう。

 それまでの時間をどうするかと考え、


「せっかくだから部屋の中を探検してみるか」


 と礼音は思いつく。

 部屋の中は大きくふたつに別れていて、片方が寝室。


 もう片方は会議室でもあるかのように、八人掛けのテーブルと椅子があるし、スクリーンやテレビもある。


「でっけえ……この部屋だけでも俺のアパートの二倍くらいあるじゃないか?」


 と礼音はつぶやいた。


 実測してみないと本当のところはわからないが、たしかめてみる気なんて起こらない。


 次に彼はトイレと洗面が二か所あることを発見する。


「トイレも洗面も複数あるのかよ……」


 またしても彼は驚かされた。

 たしかに過ごす部屋が違うなら、トイレも洗面も近くにあったほうが便利だ。


「思いついても実行はできないよなぁ」


 なんて言いながら彼は探検を続行する。

 ベッドが彼の想定より何倍もデカくても、大したことないように思えた。


「感覚がマヒしてきたような?」


 と彼は首をかしげたところでサウナを見つける。


「サウナが部屋についてんのか!?」


 そんなことがあるのかと礼音は仰天した。


 サウナがあるのは温泉や銭湯くらいだというのは、単なる先入観だと思い知らされる。 


「すごいな……と言うか、すごいとしか思ってない気がするな」


 と礼音は言った。

 さらに近くのバスルームのドアを開けてみる。


「……浴槽も洗い場も俺の部屋くらいの広さじゃないか?」


 そして呆然とした。

 何回も驚いたはずなのに、新しい衝撃があることがまず驚きだ。


 ピカピカに磨かれた立派な洗い場も、白い浴槽も相当に広い。


「さすがに銭湯とかの大浴場より広いってことはないけど、個人用のサイズじゃない気がする」


 とひとりごとを漏らす。


「広い場所でゆっくりくつろげってことか……」


 たしかにのびのびできそうだなと彼は思う。

 寝室に行って広いベッドの上に背中をあずけ、高い天井を見つめる。


「天井も高いんだよなぁ」


 と礼音は感心した。

 アパートの自室を二段重ねにしても入りそうだと思う。


「これが格差ってやつか」


 いままで彼とは縁がなかった世界だ。

 しかし、いまは足に踏み入れている。


「こうして目で見て、寝転がってみると多少は実感できるな」


 と礼音はひとりごとを言う。

 天ヶ瀬に言われて数字を見ただけじゃ、実はイマイチだった。


 リチャードとエヴァに礼を言われ、感謝の気持ちを向けられて、人に喜ばれることをしたんだなと思った。

 

「……俺って鈍感なのかな?」


 こうしてみるとちょっとだけ疑問を抱く。

 その瞬間、スマホの通知音が鳴った。


『服の件で相談があるので、部屋に行きたい』

 

 というリチャードからのメッセージである。


「おっと、用意されたのか」


 と言いながら礼音は起き上がった。

 さすがにこんな短時間でいちから作成されたはずがない。

 

 彼の体型に合ったものが用意されたのだろう。

 リチャードに了解と返事をして、彼はドアの前に向かった。

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