第32話「リチャードのお礼」

 車がとまったのは「代々木みかんビル」という五階建てのビルの前だった。


「ビルですか?」


 と礼音が聞く。

 一階にはコンビニ、二階にはカフェが入っている雑居ビルのようだ。


「ああ。近くに、スーパー、駅、飲食店、銀行、病院がある。便利なエリアだろう?」


 とリチャードが言う。


「それはそうですが」


 礼音はうなずく。

 おまけにコンビニとカフェがテナントとして入ってるのだから、なおさら便利だ。


「カフェでお茶したり、コンビニで買い物できるのはありがたいわ!」


 とエヴァがうれしそうに言う。


「こっちだ」

 

 と言うリチャードのあとに礼音がついていくと、エレベーターがある。


「エレベーターを使えば雨に濡れず、コンビニとカフェに行けるというわけだ」


 リチャードは説明しながらボタンを押して、エレベーターを呼ぶ。

 そして三階にふたりを連れて行く。


「私としては三階を三日月オフィスの事務所、四階と五階をレオンの自宅に使えばいいと思っている」


 とリチャードは話す。


「先に見て回ったほうがいいんじゃないかしら! 気になるところがあればなおすか、ほかの建物に行けばいいんだから!」


 とエヴァは元気に提案する。


「それはそうなんだけど、いいんですか?」


 礼音が確認すると、


「かまわないさ。あなたに対する礼を兼ねているのだから、気に入ってもらえなければ意味がない」


 リチャードはおだやかに笑う。


(お礼のスケールがでかくないか?)


 と礼音は呆れたが、彼らの感覚が一般人と違うのはすでに理解している。

 断る理由もないので、受け入れようと思った。


「三階は男女別トイレがあり、エアコンがついていて、キッチンと冷蔵庫を置くスペースもある。過ごしやすいと思う」


 とリチャードが言いながら見せる。


 事務用の机と椅子がふたり分すでに置かれていて、まだスペースにはあまりがあった。


「エアコンと冷蔵庫がついているのはありがたいですね」


 礼音は答える。

 とくに大事なのはエアコンだ。


「寝袋を持ってきて、ここで生活するのもありかもしれません」


 と礼音は言う。


「それだけ気に入ってくれたならうれしいが、上の階も見てくれ」


 とリチャードは笑った。


「三階から四階と五階は階段でも濡れずに移動ができるし、各階に内側からカギがかかる。セキュリティーにも抜かりはないよ」


「便利ですね」


 と礼音は感心する。

 とくに雨を気にしなくていいことと、カギがちゃんとついてるのがいい。


「四階にもキッチンとトイレがついているんですね」


 と礼音は見ながら言う。


(たぶん1LDKってところか?)


 大雑把に目算する。

 リビングとキッチンが十二畳間くらいありそうだ。


「そうだ。五階には部屋しかないが、三つの部屋がある」


 とリチャードは話す。

 五階にはトイレと洗面所があり、三部屋はそれぞれ六畳間くらいの広さがある。


「四階でご飯食べて、五階で寝る感じですね」


 と礼音は言った。

 移動が面倒ならすべてを四階ですませてもいいだろう。


 LDKの部分が広いので、ひとり暮らしなら四階だけで完結させることも可能そうだ。


「気に入ってくれたかな?」


「ええ、とても」


 リチャードの問いに礼音は笑顔で答える。

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