第8話「【懸賞クエスト】」

「法人を作られた方には【懸賞クエスト】へのアクセスが可能になります。【ゲート】パスポートが必要になりますのでお気を付けください」


 と女性は説明する。


「【懸賞クエスト】ですか?」


 知らない単語を聞いた礼音の頭に疑問符が並ぶ。


「ええ。異世界【アルカン】の希少なアイテムを入手し、譲渡売却してほしいという要望が掲載されたサイトです」


 と女性は回答する。


「ご覧になりますか?」


「はい」


 礼音は疲れよりも好奇心が勝った。


 依頼を受けるほうが、トレジャースネークを偶然倒すより稼げるのではないかという期待もある。


 いまの暮らしから脱出するためにはもうすこし収入がほしいところだ。

 楽でなおかつ安定しているならなおよい。


「ではこちらをご覧ください」


 専用機器をケーブルでつないだノートパソコンが貸し出される。


 【ゲート】パスポートを専用機器に通すと、パソコンは立ち上がって目的のサイトが表示された。


 ・【エリクサー】募集

 ・【ヒクイドリのかぎ爪】売ってください


 ・病気の治療に使うので【ソーマ】がほしい

 ・誰か【ヌーカ】と呼ばれる薬を入手できないか?


「いろいろ並んでるけど、わかる品物がひとつもないな」


 と礼音はつぶやく。

 【アルカン】初心者なのだから当然なのだが、上手い話はなさそうだ。


「依頼に応えて大儲けってのは難しいかな……?」


 楽して生きていきたいので、難しくない依頼を選びたいと思っている。


 それとも入手したアイテムに賞金がかかってないか、チェックするほうがいいのだろうか。


「入手難易度が低いものは賞金も低くなりがちですから」


 と女性は愛想笑いを浮かべて話す。


「そりゃそうですよね。ありがとうございます」


 礼音はパソコンの電源を落として、彼女に礼を言う。


 ひとまず彼は自宅の安アパートに帰る。

 

「10億円……税金引いて9億もあるなら、もうちょっといい場所に引っ越しできるかな?」


 とつぶやいた。

 彼が住んでいるのは安さだけで選んだ狭いワンルームだ。


 バスルーム、洗面、トイレ、キッチンは一応あると言えるレベルなので、できるなら引越ししたい。


 駅から近く、それなり広い築浅のきれいな物件が理想的だ。


「いや、待てよ? 俺で新しく部屋を借りることはできるのかな?」


 礼音はある疑問を浮かべてしまう。


 彼は高卒フリーターだし、収入も低く社会的信用は低いだろう。

 法人用口座を見せればあるいはと言うところか。


「……金はあるんだからしばらくは寝に帰るだけにしようか? それとも【アルカン】で泊まるのもいいかな」


 とひとり考える。

 金を口座から下ろせばホテルに泊まることもできるだろう。


 もしかしたら【アルカン】でのほうが社会的信用は高く、いい家を借りられるかもしれない。


「何もこっちのアパートにこだわる必要はないんだよな」


 もっともあちらのほうが危険度はずっと上だろうから、永住を決めるのにはためらいがある。


「ホテル暮らしで個人情報はどうなんだろう? いや、ホテルだったらしっかりしているんだろうか?」


 高級ホテルなら外国の要人や富裕層が泊まることだってあるはずだ。

 ふと思いついて礼音は高級ホテルの宿泊サイトにアクセスしてみる。


「一泊10万!? 素泊まりで!?」


 そして表示された金額に驚愕した。

 1年だと3650万で食費をふくめるとさらなる出費になる。


 いまの彼の稼ぎでは先は心もとないと言えるだろう。


「ホテル暮らしができる人って、どれだけ金があるんだよ……」


 金持ちは自分の想像以上に金持ちなのだと思いつつ、礼音はシャワーを浴びてせんべい布団で眠った。


 

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