第4話「礼音の冒険」

「余裕で勝てそうだな」


 と礼音は集団戦闘を見て安心する。 


 危なくなりそうだったら何らかの援護をするか、助けを呼びに行こうかと思っていたのだが杞憂だったらしい。


(魔法なのかスキルなのか、わけがわかんねえな)


 と戦闘を見て感想を抱きながらそっと離脱した。


 フィクションでいろいろ見てきたのだが、実物を遠くからという状況では参考になりそうもない。


 鼻がいいらしい犬のモンスターに気づかれないくらいだから、現状で自分のスキルはそこそこ使えそうだ。


「スキルがそれなりに使えそうだとわかったのが収穫か」

 

 とつぶやく。


 何となく予感があって【ゲート】パスポートを見てみると、スキルの部分に変化が見られる。


「35/600」


 という数字が右側に出ているのだ。

 

「35が35分と仮定した場合、あと525分使えるってことか?」


 あくまでも仮定の話だが。


「500分だと残りいくらだ? 8時間くらいか?」


 礼音は計算があまり得意ではなく首をひねった。

 とりあえずスキルを解除してすこしの間待ってみる。


 左側の数字が「34」「33」と減っていく。


「やっぱり左側が消費した時間、的な意味でよさそうだな」


 全体で約600分も使えるなら、利用価値はかなり出そうだなと礼音は思う。

 あとはどれだけの相手に有効なのかだが。


「いや、普通にこっちで暮らす分に問題なきゃいいか」


 と思考を途中で止める。


 冒険者なり何なりなって戦闘で成り上がるなら、スキルを鍛えて分析していく必要はあるだろう。


 しかし、礼音にそんな気はない。

 無料で行ける旅行感覚にすぎないのだ。


「……食費と宿泊費はかかるか?」

 

 そこまで考えて礼音はかなり現状がピンチだと気づく。

 飲食物を買う金がなく、確保するアテもなかった。


 野宿しようにもどこなら安全なのかもわからない。


「……水だけでも確保しないと詰むかもしれないな」


 一日くらいなら何も飲まなくても人間は死なないらしいが、と考えたがあまりうれしくはない情報だ。


 都市のほうへ戻ろうと反転したところ、森林があることに気づく。


「森なら泉や食べ物はあるかもしれないぞ。奥に行かなきゃ大丈夫だろう」


 と礼音は自分に言い聞かせる。


 行き当たりばったりな行動をした結果、飲食物に困ったわりに懲りていない男だった。


 獣道らしき場所を通っているうちに、人の手が入っていると思われるルートを発見したので、そちらに移動する。

 

 そこでガサガサと大きな物音が聞こえたので、彼はとっさにスキルを発動させた。


 直後、一匹の鹿みたいなモンスターがそばに来て、立ち止まって怪訝そうにする。


(やっべー、俺を狙ってきたのか)


 と礼音は冷や汗をかく。

 だが、スキル【存在感なし】のおかげで見失ったようだ。


 このスキルの有効時間中なら安全だろうと彼は考え、森の中へと進んでいく。

 そして洞窟らしきものを発見する。


「この中に何かあれば楽なんだけどなー」

 

 と礼音はつぶやきながら中に入ってみた。

 ピチョンピチョンと水滴が落ちる音がどこからか聞こえ、彼はやる気を出す。


「水があるならいいなー」


 洞窟の中はうす暗いので壁に手を当てながらゆっくりと歩く。

 そして彼は一番奥までやってきて、小さな窪地に水が溜まっている場所に出る。


「……飲めるのかな、これ?」


 できれば煮沸消毒したいと思うものの、必要な器具を彼は持っていない。


「ちくしょう」


 八つ当たり気味に地面を蹴ると、「カチッ」という音が聞こえる。


「……えっ」

 

 そして何かが動く物音が聞こえて地下への階段が出現した。


「マジで?」


 礼音は信じられず思わず声をあげる。

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