第2話「都市リーメに着く、そしてスキルが発現する」
近くの建物に入ろうとしたところで、金髪の若者に呼び止められる。
「あんた見ない顔だな。もしかして異世界人かい?」
「そうだけど」
年があんまり変わらない青年だったので、礼音は敬語を使わなかった。
普通に言葉が通じるものなんだなと思いながら。
「異世界人ならまずは交易ギルドに行って、手続きをしておいたほうが便利だと思うぜ。たぶんだけど、この都市に来るの初めてだろ?」
「そうなんだけど、何でわかったんだ?」
言い当てられて礼音は驚く。
「そりゃ荷物背負ってるだけ、なんて恰好をしてりゃな」
若者の言葉はいまいち飲み込めなかったが、とりあえず礼音は助言に従うことにする。
「その交易ギルドってどこにあるんだ?」
「あんたから見て左にある黒い屋根の建物だよ」
「ありがとう」
親切に教えてもらった礼を言い、彼は交易ギルドの中に入った。
中はけっこう広くにぎわっているが、青い髪の女性職員がすぐに礼音に気づく。
「いらっしゃいませ。異世界人の方ですか?」
「はい」
そんなにわかりやすいのかと思いながら、彼は彼女の前に立つ。
「とりあえず登録しておいたほうがいいと言われたんですが」
「登録しないとスキルは発現しませんから。スキルは持っておいたほうがお得ですよ」
話しかけた礼音に女性職員はにこやかに説明する。
「スキルか」
地球で暮らすだけではけっして身につかないもので、ちょっとした憧れはあった。
「登録ってどうやればいいのですか?」
「【ゲート】パスポートを持ったまま、【魔法水晶】に手を触れてください」
礼音が聞くと女性職員は紫色の水晶玉をカウンターの上に置く。
言われたとおり触れると水晶玉が淡く光る。
「はい、スキルが発現しました。【ゲート】パスポートで確認してくださいね」
「……何と言うか、お手軽じゃないですか?」
と礼音は言いながら【ゲート】パスポートをチェックした。
自分の名前のすぐ下に「レベル1 スキル『存在感なし』」が表示されている。
「すごいスキルに目覚める方は時間がかかるのですけど」
女性職員はちょっと気の毒そうに言う。
「つまり俺のは外れスキルってことですか?」
人生が外れみたいだったのに、発現するスキルまで外れなのかと礼音は悲しくなりながら質問する。
「そうとはかぎりません。習熟度上げ、使い方を工夫することが大切ですよ」
と女性職員は答えるが、礼音にはなぐさめに聞こえた。
(せっかくだしどんなスキルなのか試してみるか)
とは思ったので、
「スキルを練習する場所はありますか?」
女性職員に聞いてみる。
「周囲を壊したり危険を与えるものでないなら、どこでも自由に練習していただけますよ。もちろん犯罪行為は取り締まりの対象ですが」
「わかってます」
礼音としても来ていきなり犯罪者扱いはごめんだった。
「念のためこの国の法律について書かれた本を一冊差し上げましょう」
と女性職員は青い表紙の一冊の本を渡してくれる。
旅行者に渡すガイドブックのような扱い、というのが礼音の印象だった。
ざっと目を通したかぎりでは、日本と法律に大きな違いはなさそうだ。
もっとも貴族がいて、国王がいて、それらに関する法律もあるようなので過信はできないが。
「広場でいいかな。スキルを使ってみるだけなら」
と礼音はつぶやく。
彼に発現したスキルは名前を見るかぎり、単に存在感がなくなるだけのようだからだ。
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