ジャレス相談所の効果 後編

「素材の切り方もキレイ。きっと刃物がいいから。みんなはそれが妬ましい」

「おお。大絶賛してくれるじゃんか。泣けるねえ」

「宿屋の主人もリードのお店で包丁を買ってるよ。すごく切れ味がいいって」


 言ってから、マノンは串焼きを指さす。


「これ、新作?」

「ああ。茹でたタコ足を、串に刺して焼いてみた。酢をつけて食べてみてくれ」


 リードお手製のタコ串を、マノンはためらいなくムシャムシャと頬張る。


「うーん。タコの具に具にした食感が、お酢とよく合う」


 エミールとはまた違った、海鮮を使っている料理だ。


「よくタコなんて食べるわね?」


 西洋では、あまりタコを食べる習慣がない。

 海沿いの街が多い東洋では、ポピュラーな食べ物なのだが。


「そうなんだよな。みんな食わず嫌いでよぉ。手をつけてくれねえんだよ」

「もう一本ちょうだい」


 次から次と、マノンはタコに手をつけた。


「はふ、あくあく、はひぃ」


 口の中が熱い。

 その場で足踏みをしながら、タコを咀嚼する。


「あむあむ。でも、おいひい」


 アツアツのタコを噛むたびに、幸せな気持ちになっていく。


 周りを見ると、なぜかギャラリーができていた。

 全員がマノンに注目している。

 自分が何かしただろうか。


「ちょっと一本おくれ」


 老婆が寄ってきて、タコ串をねだった。


「あいよ。熱いから気をつけな」


 そこから、次々と売れ出す。まるで魔法が掛かったみたいに。


「すげえ。あっという間に売れたぜ」

「食いしん坊なマノンのおかげね」


 なぜ自分が売り上げに貢献したのか分からないが、売れたのはよかった。


「考えたんだけど、試食は大事かも」

「なるほどなぁ。これが、持ち味を活かすことにも繋がるってワケか」

「みんなに分かってもらうまでが大変だけど、一度知ってもらえばイージーモード」


 リードの強みは、剣士でありながら、料理の経験があることだ。

 倒したモンスターをその場でさばき、売るという特色を考えてみては、と提案した。 


 屋台が一段落し、一同は武器屋へ。

 陳列されている装備品を眺めながら、考える。


「武器に関しては?」

「リザードマン独特の特徴から攻めてみる。あるいは、同じような種族の特色を活かしたアイテムを作ってみる。それを、人間族でも使えるようになれば」

「例えば?」

「包丁など、調理器具を別の方向性で考えてみる」


 例えば、ウロコを取る、皮を剥ぐことに特化したアイテムを作成するなど、助言してみた。

 リードの作るアイテム技術なら、おそらく素材を傷つけない。


「素材の剥ぎ取り専用アイテムか。大体、自分の武器や、素材が固い場合は工具を使ったりな。だいたいがアリモノだ。剥ぎ取り用のアイテムがあれば、素材を痛めず手に入れられるわけか」


 気がつけば、リードがマノンの顔をジッと見つめている。


「ご、ごめんなさい。偉そうなことを言って」


 マノンはペコペコと無礼を詫びた。


「いいや、目の付け所が違うなって思ってな。さすが東洋人」

「ちょっとリード」


 エステルが、ヒジでリードの脇腹をつつく。


「すまん。褒めたつもりだったんだが、気を悪くさせちまったな」

「平気」

「でも、おかげで担任が言っていたことが掴めたっぽいぜ」


 またしても、二人は小銭をもらう。


「ジュース代だ。取っとけよ。じゃあな」


 若者らしく、リードは武器屋から颯爽と走り去った。

 

 二人はもらったお金を使ってお茶を買う。

 橋の下で、川の流れを見ながら休憩することに。

 リードの屋台で売っていた串焼きが、ほうじ茶とよく合う。


「すごいね、担任って」


 エステルに語りかけるでもなく、マノンはつぶやいた。


 担任は、いろいろな人に影響を及ぼしている。


 エステルは、まだ考え事をしているようだった。


「何があったか、話して」


 今なら、エステルは重い口を開けてくれるかも知れない。


「森に魔神結晶を持った魔族がいた、って事件があったでしょ。『こうなったのは、騎士たちがちゃんと警備していないからだ』って進言したの。そしたら、こんど余計な口を挟んだら戦乙女の資格を取り消すぞ、って!」


 持っている串を折る勢いで、エステルは当時の様子を語る。


 ひどい。明らかに騎士団の怠慢なのに。冒険者からは死者まで出ているのだ。


「王立騎士団ってどこでもああなの? ママがいきなり戦乙女に志願した理由が分かってきたわ! あたしも教会から志願してやればよかった!」


 確かに、エステルのような柔軟性の高い人間にとって、騎士団は窮屈なだけだろう。

  

 なんとか励ましてあげたかった。

 

 が、エステルのような性格の子は、根本的な障害を取り除かない限り、怒りがぶり返す。


「エステルは、間違ってない」


 友のイライラは、自分が解決すべきだ。マノンは、決心した。


「いいところがある」


 マノンはエステルを立たせる。


「ちょっとマノン、どこへ行く気よ?」

「わたしは、担任から言われた。エステルは迷わない。わたしが迷えばいいって。だけど、今日はわたしが、エステルの道しるべになる」

 

 エステルの手を握り、マノンは担任の下へと急ぐ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る