ドワーフ・モニクの復讐?

 何事かと降りてみると、ネリーのゴーレムと学園の生徒が手四つになっていた。


「あの子、モニクだわ!」

 

 エステルが、女生徒の名を叫ぶ。


 ウスターシュから、行方不明になっていると言われていた生徒だ。


 たしかネリーがぶちのめした、ドワーフの女子生徒である。その日以来、えらくしょげていたのを覚えていた。


 石でできたゴーレムのすぐ横では、ネリーの姉らしき女性が腰を抜かしている。


「マノン、その人を連れて外へ!」


 エステルとマノンは、女性を早々と外に連れ出す。


「ネリーのお姉さんはこっちで守るわ!」


 二人がかりでないと危険だと、エステルは察知していた。

 ジャレスが指示を出すまでもなく。


 モニクの表情は、鬼と化していた。

 まるで、何か別の魔物が取り憑いたような。


 もし、不遜公が凶暴な性格だったなら、マノンは今のモニクみたいになっていた。 


 敵対こそすれ、クラスメイト相手に本気が出せないのだろう。ネリーは攻めあぐねていた。


「どうした、ネリー? 前なら躊躇なくぶっ飛ばしていたじゃねーか」

「そうなんだけど、おかしいんだよ。本気でオイラにつっかかってくるならさ、なんで今さらなのさ? きっと理由があるに違いないよ!」


 モニクを押さえ込みながら、ネリーは相手の事情を推理する。


 だが、さらにモニクの力が強まっていく。限界かも知れない。


「うがああああ!」


 とうとう、モニクはゴーレムの腕をもぎ取ってしまった。


 ゴーレムの腕が宙を舞い、隣の広い空き地に落下する。


 モニクはゴーレムの胴を蹴り飛ばした。


 石製のゴーレムが、積み木のようにたやすく崩れ去る。


 バランスを失い、ネリーがゴーレムの肩から転落した。


 正気を失ったモニクの視線が、後ずさりするネリーに向けられる。


「担任、ここはお任せを」

「頼むぜ。お前さんの力を見せてくれ」


 ジャレスが言うと、オデットが二人の間に突撃した。

 モニクの手首を掴む。


 ブン、とオデットが手をあげただけで、モニクは空き地に叩き付けられた。


「殺すなよ!」

「いちいち確認が面倒ですね。承知しています」


 ああ言えばこう言う女だ。相変わらず。

 だが、こんなにも頼もしい女はそうそういない。


「少々痛いですが、ガマンなさって下さい」

「がああ!」


 怒りに我を忘れたモニクが、オデットにパンチを浴びせる。


 ふわり、と、オデットは最小限の動きで拳を受け流す。

 ただ身をかわしているのではない。戦いながら、自分の身体能力を調整している。


 ジャレスには瞬時に分かった。


 だが、オデットは反撃しない。


「ネリーさん、モニクさんに変更点はありませんか? それが分かれば、私でも止められると思うのですが?」

「もし、分からなかったら?」

「このまま死んでいただきます」

「ひえー、それは困る!」

「困るのでしたら、全力でサーチなさいませ!」


 オデットはネリーに無茶ぶりをする。



 二人の戦いを観察しながら、ネリーはモニクのいつもと違う部分を探った。


「あっ、頭のブローチ!」


 ネリーが、モニクのこめかみを指さす。


 蝶を象った、金属製のブローチだ。

 ごく微量だが、異様な瘴気を感じる。不快感だけをかき集めて作ったような。


 

「アレは、魔神結晶じゃねえか!」


 かつて死んだ魔神のかけらである。


 どうして、そんなものをモニクが。


「危ないって担任!」


 ボケっとしていると、ネリーのゴーレムがモニクの攻撃を防いでくれていた。

 

「あんた何やってんだよ! いくら力がないって言ったって、あんたはそんな物に頼るヤツじゃなかっただろ!?」


 ネリーから激が飛び、一瞬だけモニクに戸惑いの表情が浮かぶ。


 まだ、彼女は完全に支配されていない。


「きゃああ!」


 しかし、またしても魔神結晶が輝き、モニクの精神を奪う。

 ネリーもろとも、凶暴化したモニクにゴーレムが突き飛ばされる。


「おいオデりん、モニクの注意を引きつけておいてくれ!」

「オデりん、ですって?」


 不機嫌な顔になって、オデットは顔をしかめた。


「いいから、オレ様がモニクの側面に回る!」

「承知致しました。活躍を期待します」

「おうよ見てなって!」


 ジャレスは大回りして、モニクの側面に陣取った。


 モニクも気づく。エルボーが飛んできた。


「あなたの相手は私です」


 オデットが、始めて攻撃をする。石つぶてを、指で弾いたのだ。


 つぶては、モニクの目の上辺りに直撃した。


 視界を一瞬奪われ、モニクが悶絶する。


「悪く思うなよ!」


 短剣を持ち、ジャレスはブローチを、髪ごとナイフで切った。


 ブローチが両断され、ブラウンの髪と共に地面へ落ちる。


 落下した拍子に、真っ二つになったブローチから赤い宝石が外れた。

 黒い煙を吐き出し、光を失う。


 モニクが背中から倒れた。


 腕だけのゴーレムを展開し、ネリーがモニクを支え、そっと降ろす。


「もう大丈夫でしょう」

「見ろオデりん。やっぱり、魔神結晶だ。これで操られていたんだ」


 魔神結晶を、ジャレスは怒りのままに握る。


「こんな小さい魔神結晶が」

「小さいったって魔力は膨大だぜ。ネリーのゴーレムすら破壊してしまうほどに」

「これは、ウスターシュ学長行きですね」


 ネリーたちにモニクの相手を任せ、先にウスターシュの元へ。

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