オデット・ボゥ・ブラックスワン
ウスターシュに事情を説明し、ジャレスは魔神結晶を渡してもらった。
「ヒューッ。すげえや、まるっきり浄化されてやがる」
魔神結晶は、もはや禍々しさの欠片もない。
魔法石の中でも最高ランクの精霊石へ変わっていた。
これならば、不遜公も魔神に取り込まれずに済むだろう。
「当然なの。魔神を浄化するのは、我々アメーヌ冒険者学校の使命なの。お忘れになったの?」
玉のような汗を流しながら、ピエレットが強がる。
寝ずの浄化作業に没頭していたらしい。
激闘を生き抜いた女性の顔をしていた。
「いやいや忘れてねえって。オレ様の魔神結晶も、この通り浄化されているからな」
ジャレスは、自分のネックレスにかかっている魔神結晶を取り出す。
正確には、元々魔神結晶だった精霊石を。
「渡してもいいが、本当に有効活用できるのだろうな、ジャレス?」
「騙していたら承知しないの」
学長と副学長は、共にジャレスのことを信じない。
「ウソだと思うならついてこい」
「そうもいかん。実は、生徒の一人が行方不明なのだ。名をモニクと言ってな。学校にも通っていないらしい」
モニク。たしか、模擬戦でネリーに負けたドワーフの少女だ。
「ああ、用事が済んだら、探してみるぜ」
ともあれ、精霊石が手に入ったのはよかった。
再度、ネリーの家へ。
ジャレスはオデットに、精霊石へを差し出す。
「それは、精霊石ですね」
「本来、精霊石は魔物や魔族とは相性が悪い。力のベクトルが逆だしな」
負の力に特化した魔物は、正のベクトルに直進している精霊石を使いこなせないと言われいている。
「だが、お前さんレベルなら扱えるだろう。サイズも抑えられているし」
「問題ありません。十分な魔力を秘めていますね。これなら、我が魔力も安定するでしょう」
「それじゃあ不遜公、コイツに飛び込んでくれないか?」
ジャレスが、オデットに指示を出す。
オデットの身体が、精霊石に吸い込まれていく。
「こっちは準備できた。ネリーそっちはどうだ?」
ジャレスが、ネリーに確認する。
ネリーが大げさに、「ジャジャーン!」とファンファーレを口にした。
手術台に、女性の人型が仰向けになっている。
ふわっとした、ツインテールの女性だ。
長い銀髪の先端は灰色になっていた。鷲の翼を思わせる。
結び目が跳ねていて、そこがネコミミに思えて仕方ない。
「なんかさ、グリフォンの魔王って言うから、それっぽーくしてみたよ」
嵐を司る魔王、オデットにぴったりの構成である。
「今だネリー。コイツをお前の作った人型にセットしろ」
ジャレスは精霊石を、ネリーに投げ渡した。
ネリーは緑色に輝く石をキャッチし、開発した人型の心臓部に装着する。
「どうだ、いけそうか」
「成功。魔力が全身に行き渡ってるよ! オーバーヒートもしない!」
人形の瞳が開く。瞬きを数回した。
本当に生きているように見える。
オデットは何度も手足を確認した。
「調子いいですね。今まで取り込んだどの肉体よりも、身体に馴染みます」
「完全復活だな、不遜公さんよ」
ジャレスに呼びかけられると、オデットは頭を下げる。
「改めて、はじめまして。砂礫公ゴブリンロード・ジャレス・ボゥ・ヘイウッド。私はグリフォンロードのオデット・ボゥ・
不遜公、世間からは『
自分の知っている頃よりは幾分縮んでしまっているが、態度は間違いなく不遜公である。
「先生ちょっといい?」
「はいはーい」
「どうして、魔王ってひどいあだ名をつけられてるの? 石ころとか、高飛車とか」
「畏怖と侮蔑を込めて人間が呼んでる説もある。けど、オレらって下級モンスターだろ? 真相はな、上位の魔族が目障りなオレらをバカにした名前で呼んでるんだ」
いつも思うが、魔族とはなんと器の小さい者たちなのだろう。
この間の戦いで、実力は目に見えているのに。
まだいっぱしの魔物だった頃を思い出す。
「よろしく頼むぜ、オデット」
「何か勘違いしてらっしゃいませんか?」
オデットは、着ている制服を破り捨てた。
「おいおい、いくら窮屈だからって捨てるこたぁねえだろ」
「あなたに教わることなど、何一つありません。私だって、世界を震撼させた魔王の一人。砂礫公から教わるなんてプライドに反します」
「だったらどうするんだ?」
「副担任、ということで手を打ちましょう」
その辺に掛けてあった衣服を、オデットは片っ端から着込む。
黒いフリルのミニスカート、オレンジのニーハイブーツだ。
上は、ブサイクなネコがプリントされた白いTシャツである。いわゆる「変T」というやつだ。
「それ、お姉ちゃんの私物! ワタシが殺されちゃう!」
ネリーが、衣装をオデットから没収しようとした。
「ではその方から買い取りましょう。気に入りました」
デフォルメされたブサイクなネコがお気に入りのようである。
「それなら、まあいいけどさぁ。全部もらい物だから、大丈夫だと思うけど」
下の階にいる姉と相談した結果、OKをもらえた。
それどころか、「全部いらない」と支給される。
「じゃ、そういうことで」
ネリーはまた、階下から姉に呼ばれていた。
「ごめん、ちょっと様子見てくるね」
ネリーが、退席する。
途端、ネリーの悲鳴が上がった。
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