青い瞳

ゆうみ

① さわやかな出会い…?

拝啓お母様。私日和はいま気分が天国にへと向かっています。


_____ある日の朝、私はいつものように東京駅の改札を潜った。 心地の良い音と共に駅構内に入り込んだ。

するとそよ風に乗せられたほのかな桃の香りが鼻に刺さった。いくら嗅いでも飽きなさそうなほどにさっぱりとしたものだ。

まるでリードに繋がれた犬のように釣られていくと、1人の女子高校生が佇んでいた。青色の水晶玉みたいに輝く瞳、今にも透けそうな白い肌、そして桃の香りを放つ黒い髪。通行人は皆彼女に釘付けになっており、中には声をかける男性もいたが、彼女は無愛想な顔でそれらを全て跳ね除けた。華麗さとは裏腹に案外ドライな一面もあるのだなと感じた。


側から見たらストーカーだろう。でも許して欲しい、私は気になって仕方がないのだ。あの子のことが。そんな感じでしばらく彼女を見つめていた。すると、周りに数人の同じ高校であろう生徒が集まってきた。彼女のファンクラブらしい。(あの美貌だと男女構わず虜にしそうだもんなぁ)

何かを渡している素振りが伺える。その隙間からは彼女の満面の笑みが溢れていた。


すると突然、私の足元に何かが転がってきた。彼女に視線を勘づかれた私は、まるでライオンに見つかった獲物のような速度で裏に隠れた。

____お姉さん、それ取ってくれません? 耳元で何者かの声が響く。慌てて拾ったものの、誰にそれを手渡せばいいのかが分からない。すると、少し離れたところからさっき見ていた高校生が「こっちこっち」と大きく手を振っていた。

すっかり彼女の周りからは人は離れていた。私は少し照れ臭い感情を喉の奥に押し込み、その美貌には見合わない甘さゼロの缶コーヒーを手渡した。

「ありがとうございます」

少し背中を丸めてお礼をするのは、うまく感情表現の出来ない猫のように感じられて愛おしかった。


「いえいえ、私は当然のことをしたまでで___」

私がお礼に対する言葉を返そうとした途端、突如として「その、この事は内緒にしてもらえませんか…」と彼女がつぶやく。

(なぜ初対面の私に向けて言ったのか)脳内での理解が追いつかないが、どうやら彼女は学校では「オシャレで甘い飲み物をこよなく愛する女の子」という肩書きを背負っているらしく、先程のような砂糖なしのコーヒーを飲んでいることを知られたくないらしい。

「今度ご飯代くらいは出すんで…どうにかお願いします。」

とんでもない。OLの私がこんな可愛い高校生にお金を出させるなんて思われたらみっともない。

感情が入り混じるのを放っておいて、彼女は話をテンポよく進めていく。


「それじゃあ明後日の土曜日、13:00に三鷹駅で待っていて欲しいです。私最寄りが三鷹なので、迎えに行きやすいかなと」

意識がこの地に戻った時に聞いた第一声がこれだった。もう断ることもできず、私は彼女のいうがままになってしまったのだ。

「連絡先はこれです。当日はお金は必要ないので。」

そう言って手渡された紙には「宮原 彩香」の文字とメールアドレス、携帯番号が記されていた。

「あ、はい…」

「ところで失礼しますが、お姉さんの名前と連絡先教えてもらえますか?」

「その、えっと、杉本日和って言います。連絡先は____」

ここからはあまりの焦りで内容が頭に入ってこなかった。


彩香と別れたのは中野駅。

「では土曜日、三鷹駅でよろしくお願いしますね。日和先輩。」

彼女はそう言って満面の笑みとともに手を振ってくれた。心が浄化されるような笑顔に見送られながら、私は走って東西線へと乗り込んだ。


___先輩って言われるの、なんか照れくさいよ。彩香ちゃん。


土曜日は一体何があるのか。胸に期待を膨らませて職場へと向かった。




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