クソゲー行進曲 ~こうしてクソゲーは作られる~
矮凹七五
第1話 プロローグ――老人とワゴン――
「安い」という文字がでかでかと書かれた紙。それが金網付きのワゴンに貼られている。
ワゴンの中には大量のゲームソフト。
ワゴンを前にして一人の老人が立ち止まった。
白銀色の髪を持ち、高齢である事は一目でわかるのだが、その割には背筋がしっかりとしている。
老人はワゴンの中から一本のゲームソフトを手に取った。
タイトルは『49アドベンチャーズ』。
店側が付けたと思われる値札を見ると、数字が三桁しかなかった。新品であるにもかかわらず、非常に安い。
老人は、そのままカウンターに向かって歩いて行き、会計を済ませると、そのまま店を出て行った。
畳がいくつも敷かれた和室の中央に、輪投げ台が置かれている。
輪投げ台に付いているピンは、竹ひごのように細い。
輪投げ台から少し離れた所に、老人が正座している。
老人の手には『49アドベンチャーズ』と書かれたゲームソフトのパッケージ。
パッケージを開けて、中から一枚の光学ディスクを取り出し、スナップを効かせて輪投げ台のピン目掛けて投げる。
光学ディスクはピンの僅か上を通り過ぎた後、畳の上に着地した。
「惜しいな」
老人は、ぼそっとつぶやいた。
コンピュータゲームが世に出てから久しい。
かつてゲームセンター等に足を運んでまでプレイしていたものが、やがて家の中でもプレイできるようになり、更には衣類のポケットや
進歩めざましい科学技術の賜物である。
コンピュータゲームが進歩する過程で、社会現象になる程の大ヒットゲームが、いくつも誕生した。
『スペースインベーダー』、『パックマン』、『スーパーマリオブラザーズ』、『ドラゴンクエスト』等々……多くの人々の心を次々と
どのようにして人々の心を掴んだのだろうか。
斬新さ、徹底した作り込み、難しすぎず易しすぎずの絶妙な難易度……これらのいずれかだろうか、それとも全てだろうか、あるいは他の要因だろうか。
プレイした人しかわからないかもしれないし、プレイした人にもわからないかもしれない。
なぜ、夢中になるのか。
理由を聞いたところで「深く考えるな。とにかく面白ければいいんだよ!」という答えが返ってくるかもしれない。
人々を夢中にさせるゲームが存在する一方で、人々を大いに失望させるゲーム――いわゆるクソゲーも存在する。
なぜ、失望するのか。
チープなグラフィックや音楽――チープなだけなら、まだまだ可愛い方かもしれない。なぜなら、ゲームとして破綻していなければ、最後まで遊ぶ事ができるのだから。ただし、ゲームの進行に支障をきたす、あるいは健康に悪影響を与えかねない場合は、話が別である。例えば、健康被害が懸念される程、画面フラッシュを乱用したゲームが発売された事がある。ゲーム名は……あえて言わない。
斬新さが無い――まともに遊ぶ事さえできれば、クソゲーとまでは言わない。だが、大昔のものとしか思えないものを、他の最新作と同じ値段で売られると、困るかもしれない。レトロさを売り物にしたわけではないのに、何年も前、あるいは十年以上前にタイムスリップしたようなゲームが、たまにある。これらについても、ゲーム名はあえて言わない。
甘い作り込み――大枚をはたいて買ったゲームも、すぐに終わってしまったら「金返せ」と言いたくなるだろう。アクションを要するゲームの場合、当たり判定が上手くできていないとストレスフルになる。こちらの攻撃が当たったはずなのに相手はダメージを受けない、攻撃をかわしたはずなのにダメージを受けてしまう……そんな場面を想像していただきたい。
極端な難易度――高すぎると心が折れるし、低すぎると張り合いを感じない。高すぎても低すぎても、つまらなく感じるだろう。
不具合がある――論外。無いのが本来の姿である。
しかし、悲しいかな……どうしても不具合というものは、どこかで生じてしまうものである。
それは、名作と呼ばれるゲームでも起こり得る事である。しかし、名作の場合は、あっても少ない上、メーカーの方でしっかりと対処してもらえる場合が多い。
一方、クソゲーは不具合だらけである事が珍しくない。グラフィックがおかしくなったり、時折フリーズしたりするのは、まだ可愛い方で、中にはゲームが進行不能になったり、セーブデータが破壊されてしまう場合もあったりする。
なぜ、不具合だらけになってしまうのか。
人手不足、技術力不足、短すぎる納期、予算不足等々……色々と考えられる。
しかし、それはメーカーの人間しか知らないかもしれないし、メーカーの人間ですら知らないのかもしれない。
これからする話は、そんなクソゲーを生み出してしまったメーカーの物語である。
時は去年の四月まで遡る。
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