☆ 元風俗嬢とアウトローの十字架

すどう零

第1話 風俗嬢の日常

「初めまして、私二十歳の女子大生です。女優の松たか〇に似てるって言われるんでしすよ」

「ウワッぜひ会いたいな」

「あなたはサラリーマン? 学生さん?」

「一応サラリーマンです。僕いつも夜七時以降なら空いてますよ」

「フーン。じゃあ携帯の電話番号教えて?」

 この調子だと、成功率100%間違いなし。これで店まで来てくれたら、今月の売上トップはこの私だ。

 私、桃木きらら、二十二歳。いつもSNSを使って客寄せをしている。客寄せなんていうと、聞こえは悪いが、これも一種の営業活動。仕事は夜だけじゃなくて、昼から営業しとかなきゃ店のナンバー1にはなれない。

 私の職業、クラブホステスというのは、一か月前までで、現在はヘルス嬢に転職。この不況のあおりで、銀座、赤坂、六本木のクラブはどこもかしこも、閑古鳥が鳴いている状態。たいていの子は借金を抱え、風俗に身を堕とすなんていうけど、私の場合は、自ら飛び込んだってわけ。

 変わってるって? 確かにね。でも口先だけと酔っ払いの世界が時間のロスに思えてきただけよ。


 だってそうでしょう。男の目的って結局はアレじゃない。それをボトルキープさせておだてあげて、日経新聞を隅から隅まで読んで、政治、経済論に調子合せちゃってさ。

 初めは楽しかった。この世界に入りたての十七歳の頃はね。若くて美人の看板ホステスって噂されたものよ。ミンクの毛皮の身にまとい、ダイヤの指輪をステータスシンボルにしてたわ。ダンナもついて、私に一軒店を持たせてやるって言われ、有頂天になって張り切ってたの。


 でも、現実は厳しいわ。だって店を持って借金まみれになり、自殺したというママはいくらでもいるけど、繁盛したなんて話は聞いたこともない。 

 心の陰りはダイヤの指輪では隠すことができず、ミンクの毛皮では心の寒さまでおおうことはできない。この上品なママさん、素敵だと憧れていたら、二週間後、自殺なんて話は枚挙にいとまがないくらいよ。

 これじゃあ、手っ取り早くお金になる方法を選んだ方が合理的じゃない。

 いらぬ苦労は人生の障害になるだけよ。

 ヘルス嬢っていうと、売春とか違法行為とかという心配もないし、性病にかからないために、イソジンで消毒してるわ。

 男性のあそこを洗い、ナメナメもみもみしてあげて、カルピス発射で一丁あがり。 

 素性がバレル心配? 大丈夫よ。整形手術してるんだもの。それに私、天涯孤独だしね。両親は二人共、十年前に亡くなってあとは親戚に引き取られ・・・

 ああヤダヤダ。辛気臭い昔話なんてどーでもいいじゃん。今がスッキリしたらそれでいいの。

 あっ、冷蔵庫のビール。ギンギンに冷えてる。グビッ、美味しい。昔を思い出すたびに、こうやって酒で忘れるなんて、アルコール依存症予備軍になっちゃダメだよと自ら叱咤激励中。

 私の夢? そうだなあ。とりあえず二千万貯めて、日本一周旅行したいなあ。だから、好きなテレビ番組は旅とグルメ日記。

 さあ、預金通帳に二千万円記入されるまで、一心不乱に仕事に励まなきゃ。男の欲望をエネルギー源にするのが私のモットー

「おはようございます」

 タイムカードを押し、元気よく夕方四時出勤。このご時世でリストラになったサラリーマンが多いせいか、こんなハンパな時間でも、結構客は多い。

 しかし、やはり不況の影は徐々に忍び寄ってくる。


 

 

 

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