☆拝啓 クレプトマニア（窃盗依存症）氏

第1話 もう一度神のもとに帰らせて

恥を忍んで告白します

実は僕　クレプトマニア（窃盗狂）なんだ

寂しさと物質欲が相乗効果となり

中学のときから　コンビニの防犯カメラの

届かないところで　万引きを繰り返していたが

ある日　暴露してしまった

親がコンビニ店長に頭を下げ　僕はその場で殴られた

もう二度としないと誓ったのだ

でもダメだ　つい指が動いてしまうんだ

「あなたの手が罪を犯すなら　切り落としてしまいなさい。

　身体全身がゲヘナ（地獄）に投げ込まれる前に」（聖書）

この邪悪な指が悪い　誰か切り落としてよ

大人になり　僕はドライバーとして活躍できるようになった

それを見込まれ　僕は入り婿に迎えられた

しかし　邪悪な指がまた動いてしまうのだった

気が付くと　僕は入り婿を追放されホームレスになった

相変わらずコンビニで万引きしようと企んでいると

ふと教会の看板が見えた

十字架を見たとき　なぜか温かい気持ちになった

ここなら生まれ変わることができると　確信した

女性牧師のすすめで　僕は礼拝に出席し

住民票を教会に移して　住み込むことになった

教会員の熱い祈りのおかげで　僕は競争率三十倍の

運送会社に就職し　再びドライバーとして

活躍できるようになったが

二か月後　また邪悪な指が動いてしまった

「常に目をさましていなさい。

　心は燃えていても　肉体は弱いのである」（聖書）

再び元のホームレス生活に戻ってしまった

類は友を呼ぶのことわざ通り　僕と同じ邪悪な指をもった悪党に

僕はカバンごと盗まれてしまった

中には運転免許証、聖書、日記が入った僕の全財産だった

最後の生きるすべが入ったカバンだった

僕は今まで　人に分け与えたことなどなかった

しかしこの教会は　無料で僕に食べ物と

温かくときには厳しい聖書の御言葉まで与えてくれた

こんな愛は初めてだ　もう一度神の生活に戻りたい

でもそのためには　三万円必要

三万円さえあれば　僕は教会に戻って愛の生活が送れる

またいつものように　指がムズムズと動き出した

足のつま先から頭上まで

細胞のすみずみまでアドレナリンが走り

僕は無言の叫びを発し　宙に向かって前のめりに飛び掛かった

ふと気がつくと　僕は気を失いうつ伏せ状態で

路上に倒れていた

不思議なことに　僕の指には

十字架のペンダントがかけられていた