第30話 晩餐会
ルーファス様の晩餐会にクレイン様のエスコートで行くと、陛下も出席されていた。
席に着く前に陛下はクレイン様に感謝していた。
「クレイン、苦労をかけたな感謝するぞ…そちらが婚約者か?婚約者にも苦労をかけたと聞いた。二人には何か労いをしよう」
「ありがたきお言葉ですが、彼女は婚約者でなく妻です。今朝正式に妻になりました」
陛下は、婚約者と聞いていたのにいきなり妻と言われてビックリしていた。
帰って来て一晩後には婚姻届を出しましたからね。
「父上、クレインは待てない男ですよ。エステルの為に夜の山を駆け抜けて来た男ですからね」
ルーファス様の発言にクレイン様は物凄い勢いで帰国したとわかる。
荷物もほぼ持って来ずに帰って来ましたからね。
晩餐会が始まると、陛下はクレイン様の武勇伝を話し出した。
「隣国から何度も感謝状が届いていたぞ」
陛下は鼻高々と言うように話し出した。
「何の感謝状ですか?」
「どれのことかな?」
隣のクレイン様に聞くと沢山ありすぎてわからないようだった。
そして、感謝状に興味はないのか私ばかり見ている。
「エステル、クレインは盗賊やゴロつきどもを制圧してアジトを何個も壊滅させたんだ」
感謝状に興味のないクレイン様に代わるようにルーファス様が話してくれた。
クレイン様…留学に行って本当に何をしていたんですか。
「ルーファスが揉めるから先手を打っていただけだ」
そんなことをしていたから、東洋の神秘シノビのようになったのですか。
陛下は隣国から良い部隊をお持ちで、とかなり鼻が高かったらしい。
「ずっと帰らなかったから、叙勲を出来なんだが、近衛騎士団の副団長に任命し、任命式も兼ねた叙勲式をすることに決めておる」
「隊長ぐらいでいいのですが…」
「本当なら団長になって欲しいが、クレインは第1王子の近衛にはならんだろう?」
クレイン様は出世の話にちょっと困った顔になった。
第1王子は病弱な方で元気なルーファス様と違う。
あまり社交的な方でもないと聞いているし、ルーファス様と不仲と言われている。ルーファス様にも色々あるんだろう。
近衛騎士団長になれば、陛下や第1王子につかないといけなくなるみたいで、クレイン様はちょっと嫌そうだった。
「父上、クレインは俺の近衛騎士です。引き抜きはお止め下さい。今さらエステルと引き離す訳にもいきませんし」
ルーファス様は困ったクレイン様に助け船を出すように止めてくれた。
「わかっておる」
陛下は少し残念そうだけど、クレイン様もルーファス様の近衛騎士のままの方が良いように見えた。
そして、後日。
隣国からかなりの報奨金がルーファス様とクレイン様及びクレイン様の部隊の近衛騎士達に贈られて来た。
ルーファス様やクレイン様の留学費用を賄ってもお釣りがくるほどだった。
そして、また後日。
クレイン様の正式な妻になった私は、叙勲式にクレイン様と一緒に入城することになっていた。
「エステルと一緒に仕事に行けるなんて夢のようだ…フフフ…」
また悦に入っているように、叙勲式の行われる王城の廊下でうっとりと私を見つめ出した。
夫となったクレイン様と入城するのは確かに妻の仕事かもしれないが、クレイン様にとったらいつもの仕事に行くように普段と変わらない。
長い廊下を歩きながらもクレイン様は、頭や頬に唇を寄せてくる。
毎朝毎朝、出勤する時もしてくるのにクレイン様には足りないらしい。
「クレイン様、皆様が見てますよ…」
私とクレイン様の後ろにはレーヴィ様やクレイン様の部下がずらりと並び付いてきている。
クレイン様の溺愛ぶりも隠すことなく丸見えだった。
「妻が愛しいだけだ…本当にエステルは可愛い」
「そうですか…でも少し抑えて下さいね」
「俺にはエステルだけだ」
「そうですか…」
また話が噛み合わなくなってしまった。
叙勲式の行われる扉の前で、クレイン様は急に立ち止まり、私を真剣に見て話し出した。
「エステル…俺をずっと待っていてくれて、感謝するぞ」
「当然です…私もずっとお慕いしてましたから…」
「可愛いことを…では行こうか…」
「はい…」
扉が開きクレイン様と一緒に真っ赤な絨毯を歩き、陛下の前に跪いた。
そして、この日クレイン様は近衛騎士団の副団長に就任した。
そして、クレイン様の私への愛情も変わることはなかった。
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