第17話 叫ぶしかない!

主寝室では、なんと恐ろしいことにブレンダ様と執事のチャーリーがイチャついていた。


ランプの小さな灯りだけでベッドに足を垂らし、二人は抱き合っていた。

ベッドの側のテーブルにはワインの瓶が2、3本あり、酒臭い!


その様子に怒りで沸騰したように、体中の熱が噴火しそうだった。


「…っ二人共、何をしているんですか。…ここは私達の寝室になるはずの部屋ですよ!!出ていって!!」


邸の主寝室で居候と執事が密会なんてあり得ない!


「…覗きなんて下品よ」


ブレンダ様は髪をならしながら、ツンとして言った。


今すぐ出ていけ!!と叫ぼうとスカートを握っていた手に力が入ると、レーヴィ様が私の肩に力を入れて止めた。


「エステル様…今夜はお部屋に帰りましょう…」

「…あなたはジャンの友人でしょ!?」


レーヴィ様は気まずそうに見ていた。


「あなた達は最低です…! 」


この場にいることが汚らわしくて、不愉快な空気に苛立ちを感じ、私はこの場を走り去った。


二度とあんな寝室を使わないわ!


苛立ちが収まらない私と違い、朝になるとブレンダ様もチャーリーもいつも通りだった。


きっと今までも私が気付かないだけで、あの主寝室であられもないことをしていたのだろう。


だから、今朝もいつも通り。

私に見られても、この邸での立場は変わらないと思っているように見える。


朝食も全く食べる気にならず、紅茶だけ飲もうとしたが、チャーリーは淹れてもくれない。


「チャーリー、紅茶を淹れてちょうだい」


顔も見ずにチャーリーに言うと、レーヴィ様が窘めた。


「チャーリー…エステル様に紅茶を」


レーヴィ様に言われてチャーリーはふて腐れて紅茶を雑に淹れた。


「ふふっ、レーヴィ様はお優しいのね」


ブレンダ様は勝ち誇ったようにそう言った。




朝食の後は、夜会も出来るくらいの大広間で、一人ダンスの練習をしていた。

捻挫がもうすっかり良いから、少しでも上達しなくてはと、帰って来ないクレイン様とのダンスを夢見ていたと思う。


しかし、相変わらずダンスが下手だなと自分でも思ってしまう。


そう思っていると、ブレンダ様がやって来た。


「エステル、ダンスは上達したの?」

「いえ、ブレンダ様はお忙しいようですので、私に構わないで下さい。ダンスのご指導も結構ですので」


昼にジャンが来たら、皆解雇してやるわ!

と一人息巻いていたと思う。


夕べの不愉快な出来事が思い出され、ブレンダ様の顔は見たくなく、後ろを向いた。


その時、パシーンッと大きな音が響くと共にふくらはぎに痛みが走った。


「…っつ!」


何が起きたのか、後ろを振り向くとブレンダ様が物差しで私のふくらはぎを叩いたのだ。


入ってきたのは気づかなかったけど、チャーリーもドアの前に控えていた。

さすがに、私に暴行を働くところは誰にも見せられないのか、見張っているようにも見える。


しかし、そんな場合ではない!


チャーリーを見ている隙に、またブレンダ様は私を叩いた。


パシーンッ━━━━!!


「キャア!何をするんですか!?」

「あなたが下手くそだから躾をしているのよ!」


ダンスのご指導じゃなくて躾!?

そんなことよりも、叩くのは暴力ですよ!?


ブレンダ様の顔は、歪に見えて怖い!


嫌!!


痛みに耐えるように唇を噛みしめ、顔を背けると、またあり得ないことが起こった。



ガシャーンッ━━━━!!


大広間のガラス窓が一斉に割れ、黒ずくめの人達が突入してきたのだ。


何が起こったのかわからない私は叫ぶしかなかった。


「キャアァーーー!?」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る