第11話 執事の迎え


あの後は、クラリータの御者が私とクレイン様の邸に私の事故を知らせに行ってくれたが、案の定チャーリー達は来なかった。


知らせに行った御者に「居候を迎えに行く必要はない」と言ったらしい。

困り果てたクラリータの御者は昔から私がクレイン様の婚約者と知っているから、ウィルクス公爵邸に行き、執事のジャンに報告をした。


ジャンは知らせを聞くなり血相を変えてホリーのカントリーハウスに迎えに来てくれた。


「おいたわしや、お嬢様。すぐに私共と帰りましょう!」

「ジャンが来てくれたのね。ありがとう」


正直、チャーリーじゃなくて安心した。


ジャンに心配そうに握られた手を握り返すように力が入ってしまう。


ホリーやクラリータ達にお礼を言って、後日お詫びを贈ることにして、ジャンがウィルクス公爵の馬車に一緒に乗せてくれた。


小柄な私をジャンは軽々と横抱きにして、ゆっくり馬車に座らせてくれた。


馬車の中で向かいに座るジャンは最初は私とクレイン様の邸に送るつもりだったが、チャーリーが迎えに来ないことに不審を持ち、今夜はウィルクス公爵邸に連れて帰ってくれることになり、少し安堵した。

かといって、ブレンダ様が仕切っているあの邸を放置出来ない。

ウィルクス公爵邸に泊まるのは今夜だけで早く帰らないと、邸が何をされるかわからない。


「ウィルクス公爵邸は現在改装中ですが、空いている部屋をすぐに準備致します」

「ウィルクス公爵邸も改装を?」

「…も?他にも改装されてますか?」

「私達の邸の壁紙を…ブレンダ様が変えると言われて…」


ジャンは驚き、眉間にシワが寄った。

明らかに不快感が見て取れる。


「クレイン様はご存知なのですか?」

「…わかりません」

「…お嬢様、クレイン様に手紙は出してますか?」

「勿論出してます!出してますが…返事が来なくて…」


そう言い、頭があげられず膝の上の手に力が入った。


言葉にすると益々便りがないことを実感してしまう。


そして、私はクレイン様に捨てられたと思ってしまった。


ウィルクス公爵様になったクレイン様がウィルクス公爵の邸の改装するのは理解できるけど、私にはそれを知らされてない。

ジャンには知らせ、私には何も知らせないのは関係無いと突き付けられたようだった。






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