第8話 話にならない!

あれからもクレイン様は隣国に帰り、隣国が本邸なのでは?と思うほどまだ帰りません。

手紙も2~3ヶ月に一度くらいになって、半年も立てば、もう手紙が来なくなりました。

お義父様のウィルクス公爵様が他界されたから、もう婚約を破棄するのでしょうか。


そして、ダンス講師のブレンダ様はあれから、私達の邸に居候しています。


ブレンダ様が葬儀から私達の邸に滞在し始めた時は驚きました。


私達の邸の執事に聞くとクレイン様から頼まれたと言われました。


ブレンダ様が滞在するからもてなしてやってくれ、と伝えられたそうです。

ブレンダ様もクレイン様から邸の滞在を許可されたと話されました。


私は何も聞いてませんでした。

一体いつお話されたのでしょうか。


それにしても、ブレンダ様…態度大きすぎじゃないですか?

真っ昼間からクレイン様の為のワインを飲まないで下さい。


サロンに行くと、ワインに小料理にと一体何をしていますか。

楽しいんですか?

別にお一人様で飲んでいるからそう思っているわけではないですよ?


居候が人様の邸で真っ昼間から飲むのはどうなんですか?


クレイン様と他界されたお義父様のお客様ですから、我慢が必要でしょうか。


「ブレンダ様…私は少し外出して来ます」

「あらそう。ダンスは上達したの?下手過ぎて今のままじゃ社交界に出さないわよ」

「…精進します」


社交界に出さないって…ブレンダ様の紹介でデビューするわけではありませんよ。

ちょっと笑えない。


「その顔は何?私の方が身分が上なんだから、ちゃんと聞きなさい。年上でもあるのよ」


確かにブレンダ様は伯爵令嬢で私は元子爵令嬢です。

だからといっても、この邸は私とクレイン様が住む為にお義父様が準備して下さったのですが。


クレイン様にお手紙を書いても返事も来ないから…ブレンダ様をどうしていいのかわかりません。


それにクレイン様に早く帰って来て欲しいから、問題を私が起こすと一時帰国でもされたら、結局はクレイン様のお仕事に支障が出て、余計に帰国が遅くなるかもしれません。


ウィルクス公爵邸の執事のジャンに相談しようかしら。

でも結局はクレイン様に報告されたら同じです。

やっぱりジャンにも言えない。


クレイン様…欠かさなかった手紙はどうして来なくなりましたか。

お義父様の葬儀以降に減り、来なくなりましたよね。


胸がチクンとするのを隠して、ブレンダ様に行ってきますと、言うと私達の邸の執事チャーリーがやって来た。


私には素通りで、ブレンダ様にご用みたいだった。


「ブレンダ様、業者がカタログを持ってこられました」

「あらそう。通して」


チャーリーはブレンダ様が主人のように振る舞っていた。

それに業者がカタログ?


「ブレンダ様、何のお話ですか?」

「エステルには関係無いけど…まぁ教えてあげるわ。壁紙を変えるのよ」


何言ってますか、この人!?


「どこのですか!?」

「この邸よ」


当たり前のように言わないで下さい!

おかしいでしょ!!

聞いてる私がおかしいみたいですよ!!


「勝手に変えないで下さい!ここは私とクレイン様の邸ですよ!チャーリー、勝手は困りますよ!」


チャーリーは私を睨むように一瞥した。


「エステル、あなたの邸じゃないわよ。この邸はクレイン様のものでウィルクス公爵様のものよ。あなたは結婚もしてないし、親もいない、みなしごの元子爵令嬢よ。勘違いしないで。私は伯爵令嬢でウィルクス公爵家の親戚なのよ」


ブレンダ様はワインをクイッと一気に飲み、空のグラスを音を立てて置いた。

下品過ぎる。


「元子爵令嬢。勘違いは羞恥の極みですよ。無礼が業者にもバレますから下がって下さい。非常識ですよ」

「あなたはこの邸の執事でしょう!?」

「ええ、ウィルクス公爵家の執事です。元子爵令嬢の執事ではありませんね」

「…ウィルクス公爵家の執事はジャンよ…!」

「当主が交代しましたから、執事もいずれ変わるでしょう」


私だけじゃなくてジャンまで追い出す気!?


「…話にならないわ…!」


足がもつれそうなほど急いで踵を返し、玄関に向かうと壁紙の業者がカタログを両手に抱えていた。

一体どこの業者ですか!?


「業者様、申し訳ありませんがお帰り下さい。無礼のお詫びは後日致しますから」


業者にお断りをすると、チャーリーが後ろからやって来て、すぐに業者を通した。


私の足遅すぎ!

あっという間にチャーリーに追い付かれたのだ。


「あの…よろしいので…?問題があるようでしたら、今日は帰りますが…」


チラリと業者は私に申し訳無さそうに見ていた。


「問題はありません」

「ですが、そちらのお嬢様が…」

「あれはウィルクス公爵様が憐れんで邸に住まわしている親無しの元子爵令嬢です」


なんてことを!


私を侮蔑するように無視して、執事チャーリーは気まずい業者をサロンへと連れて行った。







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