年上婚約者は溺愛したいそうです。~おかしな属性を身に付けて帰って来ないで下さい~
屋月 トム伽
第1話 婚約者
12歳の時に婚約者が決まった。
婚約者は20歳のクレイン・ウィルクス次期公爵様。
「クレイン、こちらがお前の婚約者のエステル・セルウェイ子爵令嬢だ」
お父様に連れて行かれて、ウィルクス公爵邸に行くと、公爵様に紹介されたご子息は見目麗しく、銀髪に私と同じ深い緑の瞳に眉間にシワを寄せ、唇はうっすら真横に開き固まっていた。
身長差は何十センチ?というくらい背が高く、ただでさえ小柄な私とはどう見たって釣り合わない。
「どうした、クレイン?エステルが可愛くて言葉もないか?」
「そ、そうですね。可愛らしいお嬢様で…」
「そうか、気に入ったか。クレインも可愛いと思うか」
ハハハッとウィルクス公爵様はご機嫌で笑っていた。
でも、違いますよ?
クレイン様の言った可愛いは、友人がうちの子ですと、言われて、まぁ、可愛い娘さんね、と言う種類の可愛いですよ。
実際、お父様とウィルクス公爵様は、仲良しの友人ですし!
可愛らしいご令嬢ですと、目を奪われたわけではありませんよ!
空気を読んで下さい!
12歳の小娘でも、この空気はわかります!
今もクレイン様は上からひきつった顔で見下ろしてますよ。
「…ち、父上…婚約者と言っても俺は1ヶ月後には仕事も兼ねて、隣国に留学するんですよ…エステル嬢にご迷惑では…」
断って頂いて構いません!
大丈夫です!初対面ですが、大人のクレイン様と私はおかしいですから!
断られたって傷付きません!
「だから、留学前に婚約するんじゃないか」
「…その間にエステル嬢に良い縁談があるかもしれませんよ」
「大丈夫ですよ、クレイン殿。悪い虫は寄せ付けませんから。心配は要りません」
お父様、心配するところが違います。
お父様とウィルクス公爵様は私達を他所に、親戚になれて良かったと肩を組みご機嫌になっています。
「あとは若い者達でお茶でもしなさい」
ウィルクス公爵様、若い者達って…私からしたらクレイン様は大人ですよ?
お父様達と同じ部類では!?
お父様達は、仲良し二人で邸に入り、私とクレイン様は庭に準備されたテーブルでお茶をすることになった。
じっとクレイン様を見上げると、クレイン様はため息を吐き、手を出してくれた。
「…行きますか?」
「は、はい…」
そして、クレイン様のエスコートでお茶のテーブルに着いた。
「エステル嬢…婚約はお嫌では?」
クレイン様は、少し困ったように聞いてきた。
私のような子供にもきちんと丁寧なクレイン様に何だか、すいませんと言いたくなる。
「エステルでいいです。クレイン様はご迷惑ですよね?お断りして頂いて構いません。恋人とかいらっしゃいますよね?」
「…そういう方はいませんが…では、エステルと呼びますね」
「はい」
クレイン様は優雅に紅茶に口をつけ、私もはしたなくないように飲んだ。
本当はミルクを入れたり、アップルティーとか甘いのが好きだけど何だか入れられなかった。
そして、ちょっと見栄を張って砂糖を余り入れなかったら、やはりちょっと苦い。
「…エステル、好きなお茶は何ですか?」
「…紅茶です」
「…紅茶の中では?」
「…アップルティーです…」
苦そうに飲んだのがバレてしまった。
ちょっと恥ずかしい。
見栄っ張りと思われたかもしれない。
「…俺もアップルティーは好きです。一緒に飲みましょうか」
「はい…」
クレイン様とはこの日からお忙しい中お会いして下さるようになり、週に一度はお茶をすることになった。
そして、婚約を破棄するとは一度も言わなかった。
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