足りない2

 わかっていることは勇者王子との結婚をする事実だけ。頑張っているはずだった。頑張っていると思っていた。師匠にも努力を怠るなと。努力を怠っていたのかもしれない。頑張れていなかった。努力が足りなかった。だから、だからシャローザは僕のそばから去ってしまったんだ。

 もっと頑張らないと。もっと、まだまだ修練が足りない。まだまだ師匠に追いついていない。

 魔力の操作を頑張らないと。気絶するなんて、きっと努力が足りていないんだ。昔だったらもっと出来たのに。階段を下りると調合室の方へと歩いていく。職員の人たちが顔を見るが、調合室に入らず倉庫に佇む。

 昨日に続いて商業のギルドへ納品出来るものを作り出していく。魔力量を正確に素早く形を整えていく。素早く正確に、魔力の量にブレがないように。

 白粉用の容器を正確に作っていく。ひとつひとつ丁寧に正確に形と寸分も狂わないよう集中して作っていく。まずはゆっくりと形を確かめながら。正確に形を確かめていく。手に取って、いろんな角度を向けながらおかしいところはないか、違う形になっていないかを見ておく。

「ランス君目が覚めたのか。それで何をしているのか、教えてもらってもいいかい?」

「魔法の練習、努力が足りていなかったんだよ、きっと」

「すごいと思うけどね、ランス君はきっとすごい努力をしてきたんだとわかるぐらいには。どうしてそう思ったんだい?」

「足りていなかったんだよ絶対。足りなかったからシャローザはいなくなった。頑張らないと」

 それを聞いたギルド長は視線を下に落として言葉を続ける。

「あれはランス君のせいではない。自分を責めなくてもいい。あれは貴族のせいであって、ランス君にはどうにも出来ないことだった」

「でも、一緒にいれば防げたし、一緒にいたいと思ってくれれば残ってくれていたかもしれないよ?一緒いたいと、その人と比べられて思われたってことだよね?」

「ランス君、違うんだ。違うんだよ。あれは貴族の大人達が勝手に決めてしまって、君たちは巻き込まれたんだ。ランス君、魔法の練習をしなくてもすごいことは知っている。比べる必要なんかない、ギルドの人間は君がいかに優秀であるか知っているよ」

「じゃあ、もっとやる」

 わかってもらっていても、どこかへ行ってしまったのは間違いない。行ってしまったから、行かないように頑張る。

「ランス君、止めはしないけど、倒れるまではしないようにね」

 どうにもならない気持ちが、どうしようもなくて。少しずつ速く、違いがないように作っていこう。速く、もっと速く。ちゃんと出来ているものを速く作るんだ。


「ランス、ランス」

 誰かに呼ばれて中断をする。

「あれ?どうしたの?」

「何をやっているんだい?あんたに話があるんだよ。いいからこっちへおいで。それを回収しておいて」

 シーラさんだ。一緒に来ていた商業ギルドの人達は僕の作った容器を回収していた。

「朝は食べたのかい?」

「食べてない」

「何か食べな。用意させよう」

「誰か、ランスが朝を食べてないんだ、用意してくれないか」

 薬師ギルドの人達の中でそれならと1人がギルドを出て行った。

「さて、こっちだね」

 薬師ギルドの3階、僕の入ったことのない扉が開けられては行っていく。ふっかふかの長椅子に細工のされたあれこれ。貴族の人用の部屋じゃないのかな?冒険者ギルドと薬師ギルドの本部長もいる。

「昨日決まったことをランスに伝えておくよ。もう結婚式は終わりだろうからね。勝手に奪っておいて何もなしじゃあ、ギルドの面目丸つぶれだ。もぎ取ってきたよ」

「何をとってきたの?」

「各国で販売されるランスの販売物の税金を下げさせた。売り上げに各国が課している税金だよ。売ったら国に税金を巻き上げられるんだ。だいたいそうさね、3割から4割ぐらいが持って行かれるんだ。それを1割にまでしかとらせないようにした。それだけでがっぽりだよ。単価が高い分、取られる税金も多かったからねえ」

「そうなんだ」

 入ってくるお金を確かめたことがないからよくわからない。

「そういえば、取引の期間は浅かったんだ。売り上げが売り上げだけに、忘れていたよ。一定期間したら売り上げの詳細な報告書を渡すことになっているから、初めて渡すときにはちゃんと説明してもらいな。うちがもらっている手数料やどんなことに経費がかかってとかね。もちろん税金ものってる。子細確認するんだよ?」

「うん」

 税金が減ったってことかな?税金にとられていた分が減るから、その分がもらえるってことだね。

「それじゃあ、うちもだけど売り上げの税金は各国で1割になったのと希少材料の優遇をつけておいた。祝福後になるけど珍しい薬を作るときに使うものを優先的に回してもらえる。あとは自分でも採集する?」

「うん、するよ」

「普通の採集なら自由に許可なく取れるんだけど、希少材料の採集は許可やとる量を制限しないといけない。だから、そういうところへ採集へ行くときは薬師ギルドに相談してくれれば、代わりにその国へ交渉して取れるように手配出来るようにした。薬師ギルドに言ってくれないと、勝手に採ったとして犯罪者になるし、次の採集をさせられなくなるから気をつけて」

「わかった」

 希少材料の採集をちゃんと出来るのなら楽しみだな。どこか行けないかな?

「行くのは祝福後だよ?本当は国外に出るのはよくない。国内に希少材料の採集場所があったとしても祝福前は許可を出せないよ」

「うそ?」

「祝福後だよ。ダメなものはダメ。そこは譲らない」

 探す前にダメになってしまった。行ってみたいのに。

「祝福後まで我慢するしかない。それでは冒険者ギルドからは同じく売り上げの税金の軽減。割合は他のギルドと一緒だな。それと勇者関連クエストを受けなくてよくなった。ただし、勇者を殺したときは代わりに魔王を討伐しなければならない」

「それって奴隷勇者の話に似てるね」

「そうか?それより知っているのか?」

「あの人が知らないとでも?」

「確かにグリゴリイ様が知らないわけがない。ティワズも知っているのか?」

「そのことは一緒にいたから知ってる。勇者の話って好きみたい」

 魔王討伐の話ってワクワクするよね。

「勇者のその後の話っていうのも、雑談で教えてもらったし、あれ?話していいの?」

「誓約済みだよ。ある程度の事情は把握している。あんたの規格外には何かの秘密があるんだろうねって。他言は出来ないしね、教える人は考えておいたほうがいい。わかったね?」

「そうしてるけど」

 その間を割って入るように冒険者ギルドの本部長が入ってくる。

「まだ、賠償の続きを話してないから終わってからでもしてくれ。つづきだが、強制クエストがあるだろう?あれを拒否出来る。あとは持ち込みの素材買い取りアップだな。S級扱いで優遇しているのに上乗せだから、こっちはほとんど儲けがない」

「ふーん」

 強制クエストを受けなくていいのか。それはいいことなのかがわからないけど、それでいいならいいか。

「とにかく、税金の免除でランスの手元に入ってくるお金は多くなった。食べるのに困ることはないだろう。浪費が過ぎるとわからないけどねえ。あとはランスのランクを上げるから商業ギルドに連れていくよ。かまわないね?」

「ランク?商業ギルドのランクが上がるんだ」

「それとこの国の税金全部免除だよ。賠償金も期待しな」

 部屋から連れて出られると朝の食事をもらった。薬師ギルド前には馬車が止まっていて、そこにシーラさんと一緒に乗り込む。貴族の馬車と違って派手な装飾がない。中も落ち着いた雰囲気になっている。座ると馬車は出発する。

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