賠償会議4

 腰を上げようとしていた面々が再び腰を下ろす。自分の国までも損害を被ったのだ。被害を出した国の行く末を見て、溜飲を下げるつもりだ。商業ギルドが司会を取って代わる。

「国王様と辺境伯様はランス殿にどのような賠償をなされるのか、お考えはございますか?」

「勇者連合国としての賠償は受けているではないか。これ以上は高望みであろう」

「勇者連合国は勇者様の代理として賠償を受けられたのです。王子としての賠償は他の国にはありません。王子のしたことを国王様が責任をとるのは当然でしょう。主犯である国王様と共犯であるエルミニド辺境伯様。罪を一切認めないというのであれば、ギルド側から賠償を回収出来るように取り計らいますがよろしいですね?」

「な、なにを。我が国は税を免除しようではないか。これでよかろう」

 全員の視線が突き刺さる。商業ギルド長が何も言わず、各国の重鎮達の視線であたふたする。

「では爵位も授ける。これは追って決定することになる」

「ランス殿は自由にやりたいといっていましたので、国の貴族位は欲しがらないのではないでしょうか?成人したら薬師ギルド総本部での研修を望まれていると聞いています。あとは冒険もしたいことを語っていましたので、ギルドでの地位を望まれていると考えてよいのではないでしょうか?」

「ならばどうのような賠償がよいのだ?」

「お金です」

「いくらだ?」

 薬師ギルドが最初に口を挟む。不機嫌そうに聞いてくる国王に、冒険者ギルド本部長は真顔で答える。

「白金貨で100枚以上が妥当でしょう。それ以上は帰られてからご検討ください。最低がそこということだけは覚えておいてください」

「そんな金があると思うのか?」

「妥当な最低ラインを示しただけであって、上限はございません。支払う金額によっては、この3ギルドからの要求があるかも知れません。我々は3ギルドにとって優秀で将来有望な祝福前のギルド員が蔑ろされたこと、相手が誰であれ毅然と対応します」

「そのようなことを言って、この国にいられなくするぞ!」

「では撤退いたします」

 3ギルドとも同じく口にした。ギルド員がいる間は支部機能だけを残して、本部が撤退する。貴族、国との窓口がその国になくなり、正式に依頼するには国外のギルド本部に要請するしかなくなる。しかも、基本的に国内のことしか扱いたくないので高い手数料や諸々の諸経費をふっかけられる。実質、国力が下がるのと同意義。領主などからギルド長がクエストを受けられるのは、本部の代理権限を持っているからなのだが、この国王は知っているはずなのだが、強気に出ている。その原因となる勇者王子のせいで、気が大きくなっている。

「それでは国王様との話し合いは終わります。お待たせしました、エルミニド辺境伯様は賠償をどのようにお考えでしょうか?」

「いや、本部の撤退は考え直してもらえないだろうか?領主にとってギルドは領地運営の要。なくなってしまっては立ちゆかなくなってしまう。ギルドへの依頼も出来なくなってしまうのであろう?」

「国王様の意思には逆らえませんので、撤退の方向で総本部へ報告をあげておきます」

「留まるように主要貴族には話をしておく。ランスの賠償は年の近いシルヴリンを代わりに降嫁させよう」

 商業ギルドは性懲りもなく降嫁させようとする辺境伯に不快感を覚えつつ、表に出さないように努めた。

「お年が近いとはいえ、シルヴリン嬢とランス殿と相性がよいとも限りません。しかし、シャローザ嬢とはとても相性がよかったように見受けられました。うまくいかなったときの賠償も代替案としてお願いたします」

「シルヴリンとはうまくいくはずだ。シャローザは部屋に閉じこもっている子ではあったが、シルヴリンは活発な子であるからな」

「そうですか。ですが、こんなのようなことが再びおこるかもしれませんので、そのかわりの用意は必要です」

 辺境伯は悩んでいるが、代替案を口に出そうとしない。

「こちらからの提案は、見事なワイバーン剥製の落札額を賠償に充てるのはいかがでしょうか?」

「しかし、あれは領にとっても必要な」

「シルヴリン嬢はランス殿相手としてふさわしいのでしょう?うまくいけば問題ないのです。先ほども辺境伯様がうまくいくと断言されていたではありませんか。あくまでうまくいかないときはです。うまくいけばいいのです」

「それはそうだが。シルヴリンなら大丈夫だろう」

「それではラント国国王様とエルミニド辺境伯様の証言は、ここにいる勇者連合国の皆々様の知るところとなりました。もしも、誤魔化しや不履行がありましたら皆様にお知らせ差し上げることをここに宣言しまして、本日の交渉ごとは終わりとなります」

 終わったあとギルド関係者は難しい交渉をやり遂げて、一息ついた。

「報告と総本部の意向を聞いてみなければ。気を抜いている余裕はないぞ」

「いわれなくてもわかっているよ。忙しいねえ」

「とにかく、賠償はなんとかなりましたから交渉は成功と思っていいでしょう」

 それぞれ足早にギルドに向かって行く。いい加減に早くこの場所を離れたい。国々の重鎮が集まる中にずっといたくはないのだ。重鎮達は国への報告をどうまとめようかと相談をしつつ、問題のあったラント国国王とエルミニド辺境伯の苦々しい顔や慌てふためき失言をする様子などを眺めていたので、いい気味だと多少なり気分良く帰って行った。


 会場に黒い羽が1枚落ちてきて床に触れると消えた。



 本部長達はギルド長にあらましを報告し、そして本部撤退の可能性についても言及した。国王の失言にギルド長達はあきれていた。そのまま総本部への報告へ向かう。

「もう1件報告があります。シャローザ様が商業ギルドに来られました」

「なんだって?どうやって抜け出してきたんだい?」

「白粉を購入に来ました。朝方だったので来られたのだと思います。近衛兵は連れておりましたので、手順は踏んでいるはずです。そこでランス君宛の手紙を預かりました。どうやってでも渡したかったのでしょう、ギルド員のランスとハッキリ言われていましたので」

「ギルド員かい。考えたね。ギルド員宛のものを勝手には奪い取れない。中身を見たらランスが暴走しかねない。結婚式が終わるまでは渡さずに厳重に保管しておくんだ。ランスには悪いけど、今、ことを起こされてはこちらの立場が悪くなってしまうからね」

 シャローザの手紙は金庫にしまわれる。結婚式の終わりまで空くことはないだろう。普通の職員では開けられない金庫なのだから。

「それとこちらでの品で喜ばれるものを探されている方が多いので白粉や美容液をおすすめし、クリスタルもおすすめしたのですが、他にめぼしいものがないので皆様がそれを欲しがりまして。ランス君を呼んで作ってもらえないでしょうか?ファーレ王国分とすりあわせて、予約を入れられた方々に相談いたします」

「そうかい。それならついでに今日明日で作れるだけの白粉と美容液の用意を頼んでおきな。作れるだけ、特急料金と夜の手当も出すと。国のトップ達だ、赤字でもいい。用意出来るだけ用意するように。これで各国にも宣伝が出来て、注文が舞い込むよ」

「わかりました。売るために必要だと頼んでそのままランス君を連れてこさせます」

「頼んだよ」


 会議の終わった会場から国王とエルミニド辺境伯は一息つくと移動していく。宰相に結果がどうあっても、内容の報告と今後についてを考えると言われていたので、国王の執務室に集まる。

「話し合いの内容を読んでいるところです。売り上げの税金がですか。国庫のいい収入になると思って期待していたのですが、それを手放さざるおえなくなるとは。ため息しか出ない」

 報告書を読む限り、商業ギルドにいいようにやられている。しかし、各国がこれを承認したのなら、正しくランスの脅威について理解したと思っていいだろう。

「国王様、ギルドの撤退を口にされていますが本気ですか?」

「勇者を出したこの国を蔑ろにするなどと、ふざけた要望ばかりするギルドに脅しをかけてやったのだ。これで少しは大人しくなるだろう」

「ランス殿を知っている方で高位の爵位の方は。ビルヴィス公爵様がいらっしゃるはずです。ここに来られるようにお願いしましょう」

「なぜ、公爵を呼ぶのだ?」

 ギルドの撤退などさせては国が滅びてもおかしくない。兵の代わりに魔物退治、兵の回復を担うポーション。物流を取り仕切っている商業ギルド。日頃から人々の暮らしにも関わるギルドの撤退などさせてしまったとき、国として立ちゆかなくなることは明白。

「それでいくら支払いを行うつもりなのですか?」

「ギルドの世迷い言であろう。我らがそのような金を支払えというのは、おかしいであろう?」

「国王は知らないのですか?ランスの力を?聞いておられるはずです。ファイアドラゴンと同等の力を持つと。国で勝てるかどうかの魔物ですよ?戦えば国が滅びるのは間違いないでしょう。その婚約者を説得もせずに奪い取った賠償なのですよ?それで済むのならそうするべきです。決して対立してはいけません」

 国王は理解を示さず、態度を崩そうとはしなかった。なぜなら勇者が王子であるから。

 平行線をたどる話し合いにビルヴィス公爵がやってきた。

「ビルヴィス公爵様、お呼びだてして申し訳ありません。こちらの報告書にまずは目を通していただけますでしょうか?」

 読んでいるうちに曇った表情を浮かべる。

「王よ、なんということをしたのですか?S級冒険者に暴れる理由を与えるなど、国が滅んだ事例もあるのですぞ。そのときは数カ国巻き込まれて滅びました。賠償を考えましょう。ギルドの撤退は書簡にて、宰相殿、忙しいが頼めるか?」

「わかりました。日程調整後交渉に参ります」

「このままでは勇者も国もなくなりますぞ、王よ。そのことをまずは理解するべきです。勇者は万能ではございません。目がくらみ道を誤って、このような事態になっていることを理解するべきです」

 宰相と公爵、更に辺境伯も加わり国王への説明を行い、正しく理解するまで続いた。それならば叙爵すればいいと言い出すのだが、断られてお金で支払うようにいわれている。お金で解決するしかない。最低白金貨100枚、すぐに出せる金額ではない。しかし、いくら出せるかによって、少なければギルドに留まってもらえるように交渉するのは難しい。金の調整が夜遅くまで続くのだった。

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