白粉の代わりを作る9

「凄い人気でしたね」

「女性の熱気は凄いね。注目されているときは獲物になった気分だったよ」

「ふふ。ランス様でもそう思われることがあるのですね」

「あの場にいれば誰でもそう思うよ。僕だけが特別じゃない」

 新しく配合を変えるために基材を作って、それから粉の割合を変更していく。ほぼチタンから試作品1号よりも濃いめまでを作っておく。基材とスライム液の比重を変えて、粉の割合別に作っていくと量が多くなってしまった。ここは商業ギルドに試験をお願いしておこう。バックに詰めてしまって、片付けてしまう。

 鍵を返すときに女性職員に取り囲まれる。

「ランス君、何を作っていたのかしら?試作品なら協力を惜しまないんだけど」

「これは汗に強い、日に強くなるようにしたもの。商業ギルドに試してもらうために作ったんだ。試作品1号や試作品2号とは用途が違うから、外で仕事をする人向けだけど、主に外で仕事するの?」

「試作品使わせてよ。お願いよ」

 すがりつかれても困るんだけど。もごもごしていると本部長とギルド長が降りてきて、駆け寄ってくる。

「何をしているんだ。説明しなさい」

 ギルド長は女性職員にきつめいった。

「試作品を作っているのなら、分けてもらおうと鍵の返却時にお願いしていました」

「何をやっているんだ。仕事に戻りなさい」

 渋々、持ち場に戻ってこちらを見ている。試作品が大人気。まだ試作品なんだよね。

「それでランス君、大丈夫だったか?」

「うん、何かされたわけじゃないから。これから日光に強いほうの試作品をお願いしに行ってきます」

「気をつけて」

 手を振って、すぐに商業ギルドに。ギルド長の部屋に入って机に試作品3号達を並べていく。容器に番号を振ってないから、番号を振る。このくらいの変更ならすぐに出来る。

「ずいぶん多いね」

「冒険者はスライム液を使うんだって。それでスライム液を混ぜて、いろんな割合で。チタンも割合を変えているから。最初の数字がスライム液の割合。1から9割ってことで。後ろの番号は粉の割合で試作品1号の割合からほぼチタンまでの試作品3号達だよ。多いけど、初めて使うものだから本当にどれがいいのか。前のは基材が決まっていたし、ある程度ゆっくり作れたからよかったんだけど。急いで作ったから。スライム液がどのくらい効くのかわからなかったから、なるべくスライム液の低い方から使ってほしいかな」

「何にしても、用意が早くて助かる。スライム液は冒険者ギルドで買えるのかい?」

「買えるけど、買い取り価格が低いからあんまり量は取り扱ってないって聞いたよ。使う人も少ないし、たまに使う人のために用意しているんだって」

 そうかいそうかいとあとは任せていいというので、商業ギルドをあとにした。改良出来る点があれば、かえていきたいな。

 横を見るとシャローザが疲れた顔をしていた。ずっとついてきていたから、疲れたんだろうな。どうしようか。

「馬車で帰ったほうがいいんじゃない?疲れたでしょ?」

「いえ、ランス様は調合や話し合いなどもこなされておりました。何もしていない私が疲れてなど」

「慣れの問題もあるから、馬車を使おう。商業ギルドで聞いてみよ?」

 メイドさんが行くというので、しばらく待つとすぐに用意された。それに乗り込んで、貴族街に帰って行く。

 馬車に揺られているとシャローザはいつの間にか寝ていた。疲れたんだ、無理しないでほしいかな。監禁場所からやっと出てきたんだから、動くことから慣れてくれればいい。あせらずにね。

 エルミニド辺境伯邸につくと門を開けてもらい、玄関前につける。眠ったシャローザを起こして、馬車から落ちないように手を繋いで降ろす。目をこすりながらこちらを見つめる。

「ゆっくり休むんだよ。体も慣れていないだろうから、無理をせずにね」

 手を振って馬車に乗り込む。無理はよくない。もう少し帰って調べよう。材料のこととかね。


 帰ってからふと軟膏に混ぜる貴重な粉末があることを思い出した。粉末自体は金属だが、獲れる量が少ないのだ。あれはどうなんだろうか?この粉の中にはないか?見逃しているかもしれないので、もう1度確認をしてみる。捨てられていない、小さな入れ物に入っている。しかも少量だ。

「ランス様、夕食はどうされますか?」

「部屋に持ってきて。これを調べないといけないから」

 亜鉛(高温にさらされて白くなった)と表示された。亜鉛というものがあればこの貴重な粉末も貴重じゃなくなるのかもしれない。そこまで考えて、試験が出来るほどの量がないから諦めた。明日、商業ギルドに行く用事が出来た。夕食を食べながら試作品がうまくいっているといいなと思い浮かべていた。


 朝食を取ってから商業ギルドに向かう。ギルドに向かうと伝言済み。新しい材料を得るために頑張らないと。

 ギルド長室に通されて、話を通す。亜鉛ならあるということなので、それをもらって火を使ってもいいところまで移動。

「今度は何をするんだい?真鍮ぐらいには加工することはあるだろうけどもね、亜鉛だけで何をするのか知りたいよ」

 亜鉛を火で温めていく。どろっとしてぶくぶくして消えた。ん?消えた。どこに行った?わからないままにもう1度挑戦をしようとする。

「燃えかすが欲しいんなら、ススみたいに上へ上がるんじゃないのかい」

 なるほどと木の箱をもらって、上にかぶせながらさっきの要領で行う。さっきのように消えてなくなる。木の箱の中に白い粉がついている。

「これとこれ同じかな?」

 調べにギルド内に戻ると前にも合った鑑定士さんに鑑定してもらうと同じものだと言われる。

「製法を登録しておこう。で、これはどうするものなんだい?」

「試作品3号達の粉として、使えるかなと思って」

「それはこれが金属だからかい?」

「そう。それとどこかの製法で軟膏にこれを混ぜるものがあるらしいんだ。思い出したから追加しようと思って」

 納得したように頷いて、昨日の日焼け止め類に追加。さらに種類が多くなり、量も少なくなった。試作品3号は多くなり、ギルド長の提案で1、2号を先行しようということになった。1、2号にも混ぜてみることに。薬師の漏れた人達に渡して、名前を記録。あとは結果待ちだ。


 あとは見守るだけで1、2号は問題なくそのまま製品化、発売された。問題は試作品3号。つけたものが取れなくなる問題が発生した。スライム液を多く入れると長く持つようになるのだけど、それと引き換えに取れにくくなる。石けんや油など落ちそうなものを試していったが、石けんでも2度洗いは必須。それでも落ちきれないときがあった。専用の洗うための何かが必要となった。普通に顔を洗えそうな、普通の人が手に入れられそうなものは試した。


 それは偶然だった。スライム液を使って試作を重ねているときに、手についた試作品が取れていたのだ。スライム液でスライム液を洗うと落ちることが発見出来た。石けんで落ちるぐらいの割合も見つけたので、試作品3号は石けんで落ちる持ちのやや悪いものと強力に持つが、専用の落とし液を使わないと取れづらいものとに分けて販売されることとなった。

 商品名なのだけど、意味不明に僕の名前がついていて試作品1号はランスの白粉。試作品2号はランスの美容液。試作品3号はランスの日焼け止め優とランスの日焼け止め強になった。こういう商品名もあるので、そうなんだと聞いていた。商業ギルドでは最高級品、僕の作る瓶に入れられる。から中級程度までを取り扱う。貴族向けといった構成になっている。薬師ギルドでは庶民層向けの取り扱いになっている。入れ物も簡素で丈夫。中身はほぼ変わらない。商業ギルドのほうは肌にいい成分によって、お値段が変わるようだった。何種類かあわせたものも提案していたので、それで差異を作り出しているようだった。

 薬師ギルドの生産という箔もついて、鉛白の使われた白粉は急速に使われなくなった。ただ、白さだけの面でいうと負けてしまうので、使い続ける人はいるようだ。キラキラ感は勝っているんだけどね。自分で選んで使っているので、止めることは出来ない。薬師ギルドの世話になる前に、危険なことに気がついてくれればと思う。そのために作ったのだから。

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読んでくれてありがとうございます。

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