辺境伯城下町1
楽しくなってきたけど、今日は午前中までということになってお昼を食べたら外に出る。何があるのかを探検しながら、外に出る門にいた。ここから出入りするのか。
「どこの子だい?お父さんかお母さんはいないのか?」
「迷子じゃないよ。研修をしてもらってるの。午後から休みだから探検してたんだ。外って出てもいいの?」
「外に出るのは構わないんだが、なあ」
もう1人の門番と顔を見合わせる。
「中に入るには兵士証か家の者なら顔を覚えている。それ以外になるとうちらでは通していいもんか、わからないんだ。一応、門番は騎士団の一部なんで、勝手に入れたってなるとクビになっちまう」
「外に出たいんなら、兵士証を貰えるはずだから聞いてみな」
わかったって返事をしてから戻っていく。誰か知り合いの人はいないかな?兵舎がいっぱいで逆に人がいない。兵舎に人はいるはずだけど、訓練とかでいないのかな?昨日行った訓練場に行けば誰かいるかも。
一応知ってる人はいたが、シルヴリンだったので別の人を探そう。お城のほうに向かえば、執事さんかメイドさんがいるはず。
「ランス!」
引き返しているところを見つかる。ああ。
「ちょっと何で戻ろうとするのよ。力のスキルはなかったけど、速度のスキルはあったわ。教えてくれる人がいないからランス、教えて」
「外に行こうと思っていたのに、帰るのに兵士証がないと入れないって。それをくれる人を探していたんだ。シルヴリンはくれないよね?」
「渡したら教えてくれる?」
「教えるなら城外の方がいいかな」
わかったわと言ってメイドのカーラさんに丸投げする。
「シルヴリン、速度があるからって力がいらないわけじゃないよ。それと速度で翻弄させる体力がいる。ここからが始まりになると思っていた方がいい」
「でも強くなれるんでしょう?」
「強くなれるかは本人次第。スキルを感じられればすぐに上達するよ」
「スキルを感じる?練習するってこと?」
「剣を振ればスキルを感じるでしょう?それを感じられれば上達するってこと」
首をかしげている。闇雲に振っていたのか。
「剣を振ってみて」
木刀を振り下ろしているシルヴリンを眺めている。スキルの補正がかかっていない状態?何でなんだろう?よくわからないけど、振り続けているのでそのままにさせておく。なんかこう、違うって感じがするんだよね。なんだろう?
眺めているとスキルの生じていない理由がわからない。ソードスラッシュが使えるんだから、練習でもスキルで何かを感じたりするものなんだけど。僕の集中力が足りないのか、見えなくなってしまっているのか。見えなくても感じることは出来るはず。うーん?
「ねえ、ソードスラッシュを撃ってくれない?」
「いいわよ、ソードスラッシュ」
!?
「撃ったわよ?」
「え?どういうこと?撃ってるときに誰かに何も言われなかった?」
「技は自分の好きに撃てばいいって」
「そうなんだ。ええと素振りは?」
「型に合わせて振るのがいいって教えてもらった」
技はスキルの発動に合わせてそのままで、練習の時はこうするって教えてもらったんだな。反面、合わなかったときは困るよね。これはどうしようか?
「ソードスラッシュを撃つときの構えをしてみて」
普通に木刀を振るときは正眼の構えなんだけど、首の下ぐらいから両手でもってやや刃先を下げた状態。そこから剣を下に回して振り下ろして、ソードスラッシュ。突撃っぽい技に入るのには向いていそう。
「お待たせしました。発行して参りました」
「それから?」
「ありがとうございます。それじゃあ、街に行ってくるから帰ったらね」
「ちょっと、待ちなさいよ。私も行くわよ」
「先に剣の注文でもしてきたら?ここの練習用に鉄の安いヤツとか。形だけでも伝えておかなくていいの?」
何やら慌てた様子。
「カーラ、このままでいけると思う?」
「鍛冶場になら。あとは訓練で外に出るのならそのままでもよろしいかと。ただし、城外に出なかった場合は叱責を受けるかも知れません」
「ランスが城外に行くっていってた」
「それでしたら、しかたありません」
すぐに鍛冶場に連れて行かれる。熱気が凄いが、金属を溶かさないといけない。城の兵士達よりも平均的に背が低い気がする。
「シルヴリンお嬢様、勘当同然で鍛冶屋にでもなろうってことならやめたほうがいい。お嬢には絶対に無理だ」
「ち、違うわよ。それよりも細身の剣を打って欲しいの。練習用でいいから」
「剣は耐久重視で重いのがいいってのは、主さんの方針じゃなかったっけか?長さぐらいは調整するけど、細身ってのは一体どういう形の、どのくらいの幅なんですかいね」
ドワーフなのかな?じっと見てしまう。腕は凄く太い。鎚を振り下ろしているからかな?それとも種族的にそんな感じなのか?
「ランス、ランス!剣を私の剣を出して」
こちらを振り向いたシルヴリンはいきなり僕の肩を揺すって剣を出せという。しかたがないので前に出したのを渡す。
「これと形を同じようにしてくれない?」
「キレイな剣ですな。この細さだと受けたときに負けるな。強度が出にくい」
「練習のためなの。何本か打って頂戴」
「作るだけなら構わないが、ふーむ。わかった。何本か打っておこう。剣はお返ししときます」
僕の手に渡ると砂のように細かくなって消える。
「魔法ですか?何か特別なスキルとか?」
「生活魔法だけど。特別なスキルじゃないよ」
「いや、しかし、見たこともない。本当に?」
「うん、これでワイバーンも倒したしね。ね?シルヴリン」
シルヴリンは遠くから魔法を見ていると思ったんだけど。見ると頷いていた。
「はあ、それじゃあ、この方がランス様で。こんなに幼いとは思いませんでした。人族ってのは成長が早いんですな」
「ランスが凄すぎるだけよ。普通の人を一緒にしたら、全員落ちこぼれっていわれてもおかしくない。彼がおかしいのよ」
「祝福はまだって言う噂も」
「そうよ。まだ祝福前でこの強さ。本当におかしい。ちょっとぐらいわけてくれてもいいぐらい」
なんだか、周りの注目が集まっているようだ。僕と張り合うなら練習あるのみだね。実践はその辺の魔物でやってもらわないと。
「街に行きたいから先に行くね」
鍛冶場から出て大通りを真っ直ぐに進んでいけば商業区にすぐにつく。どんなお店があるのか見ていると、パン屋や粉の店、乾物の店などがあった。乾物の店では干し肉を補充して、他にも石みたいに硬いクッキーもあったので購入することにした。小腹が空いたときに食べられそう。水でふやかせば硬いのはどうにでもなる。
「保存食ばかりね、ここでしか食べられないものを買いなさいよ」
「まずは、旅用の補給からだよ。何もなく帰れるならそれが1番だけど、ほら、事件が起こって補給なしで帰ることもあるからね」
「なんで私の顔を見るのよ。私の時は帰ったじゃない」
「勝負を仕掛けられたり、大きな組織に追いかけられたり、本当に攻撃されたりね」
「そんなのやっつけちゃえばいいじゃない。出来るんでしょう?」
立ち止まって振り返る。じっとシルヴリンを見つめる。
「な、なによ」
「ここがなくなっちゃうけどいい?」
ゴクッと生唾を飲み込む音が聞こえた。
「しないよ、そうさせないために和解を受け入れに来たんだから。罪は辺境伯家にあって、領民にはないからね。組織の一員ならしかたない。でも、領民は住んでいるだけだ。君たちのせいで命を刈られるのは、僕はイヤなんだ。そのかわり簡単にやっつけちゃえないから、本当にどうしたらよかった?シルヴリン」
「そういこと、考えているとは思ってもみなかった。それでいいと、思うわよ」
「本当は冒険者ギルドも敵に回していいと思っていたけどね。止められたから、仲裁に応じるために反撃はしないでいたんだよ。あれが一番腹が立ったよね。僕より強いヤツと戦わせろって言ったのに」
「それで強い人はいたの?」
採れた野菜や果物を扱う店の前で止まる。
「殺さない程度でやってたけど、向こうが殺せる魔法を使ったから危ないかなと思って威力を上げて、止めを刺そうとしたら止められた」
店の人にどうやって食べるのかを聞きながら、果物を選んでいく。
「どんな人と戦ったの?」
「なんだっけ?パーティーだったけど、輝く太陽?そんな名前だったよ」
「うん?聞き間違い?私でも聞いたことのある有名な冒険者パーティーよね。とどめって、結構攻められてたからびっくりしちゃったんでしょう?」
「動いてない。近づかせもしてない。殺せる技を使ったから、殺してもいいように威力を上げただけ。止められたけど。僕より強いのって言ったのにな」
シルヴリンがため息をついた。おかしいことは言ってない。
「それ以上の人が用意できなかったってことでしょうに」
「でも、じっちゃんは強そうだったよ?」
「じっちゃん?誰?冒険者ギルドのおじいちゃんって」
「なんとかニャルって名前の偉い人なんだけど。その辺の冒険者なら圧倒しそうな筋肉してたけど」
は?といってから固まる。2人で顔を見合わせて何か小言でしゃべって、こちらに視線を戻す。
「もしかして、エインヘニャル様のこと?この国にいらっしゃったと噂になっていたけど」
「そんな名前だったね」
「各国国王達が一目置く冒険者ギルド総本部長のエインヘニャル様に止められたって?何をしたのよ?」
「え?冒険者ギルドが悪いことをしたから、謝らせて賠償金をもらった」
「ふぇ?謝らせた?」
「そうだよ、悪いのは冒険者ギルドなんだからしょうがないよね」
もう少し買い物をすると思って、薬師ギルドに入っていく。
「薬師ギルドに何?薬かポーションでも買いに来たの?」
「お金下ろしに。もうちょっと買い物するかも知れないからね」
「祝福前で薬師ギルドに入れないはずじゃなかった?スキルがないと無理だって聞いたことがあるわよ?」
ギルド員用の受付のお姉さんにギルドカードを出す。
「お金を下ろしたくて、金貨2枚分を銀貨とかでもらってもいいかな?」
「なになに?お使い?見たことないけど、どこのお弟子さんかな?」
「本人です」
「またまた~。確認するわね・・・・・・ランス君?だ誰か、誰か、ギルド長を呼んで!ランス君が来たわ。早く!」
薬師ギルドとは良好な関係だったと思うけど、何もしてないよ?周りがざわついて、職員の人が駆け上がっていくのが見えた。なんだろう?
「ちょっと待ってね、ギルド長がお願いがあるみたいなの。というか、ギルド員がね。F級だから無理はさせられないって。でも、もしかしたら、ね。ああそうだ、お金はすぐに用意するから待ってね」
お姉さんは慌てた様子で、お金を取りに行ったのだと思う。
「なんで薬師ギルドに入るとギルド長が来るのよ?」
「わかんない。冒険者ギルドと揉めたぐらいで、薬師ギルドではちゃんとしているだけど。何だろうね」
凄い音がしつつ階段から飛び降りるように中年のおじさんが出てきた。
「君がランス君かい?」
「そうだよ。ギルドカードはお姉さんが持ってるよ?」
「折り入って話があるんだが、そちらの方々は。シルヴリンお嬢様、ご来訪痛み入ります。ご用件を承ります」
「ランスがお金を下ろすって言ったから、一緒についてきただけよ」
「そうですか。申し訳ございません、ギルド員のランス君と少々お話をさせていただきたく思います」
職員の働く場所へ扉を開けて、入れてもらう。
「シルヴリンお嬢様、ここから先は薬師ギルド員か職員しか入れません。ギルドの機密事項もございますので、ご遠慮ください」
ついてこようとしたシルヴリンは扉の前で止められた。カーラさんにもたしなめられている。とりあえず、表から見えない部屋に入っていく。
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読んでくれてありがとうございます。
☆や♡を恵んでください。お願います。
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