王都薬師ギルド案内その2

「ランス君、エリクサーは作られたって聞いたことないわ。高いお金を払って、材料を集めても失敗するの。だから、この国はもちろん、どこの国にもないし、作れる人もいないわよ。作ろうとした人はいるけど、結局エクスポーションだったの。だから、お金を出しても買えないのよ。エクスポーションは材料がたまに揃うから、売りに出ることもあるけどね。でも、どこかの王様や貴族がすぐに買っていくから、見る機会もないのよ」

「でも、レシピは分かっているんだよね?」

「一番の難関の材料が、ドラゴンの住処にしかないのは、普通の薬師には無理だと思うな。それに材料を取ってきてもらっても、完成にはならなかった。ランス君も薬師の夢はいいけど、まずはちゃんと祝福受けて、ポーションを作って、ランクを上げないとね」

「ランクか。ランク上げたら、ドラゴンの住処に行ってもいいの?」

 低いから行けないのであれば、A級とかの高いランクになれば行けるはず。

「ドラゴンの住処は、薬師ギルドじゃ無理じゃないかな。薬を作る生産ギルドだから、戦うのが厳しいの。止めるか冒険者ギルドに依頼を出して、取ってきてもらうの。絶対に薬師ギルドから、許可は出ないわ」

「そうなの?じゃあ、冒険者ギルドからならいいのかな?祝福を受けた後に行くって、聞いたらいい?」

「ランス君って祝福前なのに、祝福を受けてすぐは無理よ。スキルレベルもない、無謀だからやめようね」

 そんなにドラゴンって強いのか。それなら戦いの修行をして、準備もしっかりしてから行かないとね。どのくらい強いんだろうか?山を一つ軽く飛ばしてしまうとか?アダマンタイトの剣がきかないぐらい、固いのかな?

「ランス君、ランス君?」

「ランス、本部長には話をしておいたぞ。薬師ギルドとして感謝をしていると言っていた。うちとしても、出来る限りの支援は惜しまないから、困ったことがあったら言ってくれ」

 ガスタンスさんが、後ろから声をかけてきたので見上げる。

「祝福後にドラゴンの住処は、行ってもいいのかな?」

「ああん?ドラゴンの住処か?もしかして、あれか、龍魔草を取りに行こうっていうのか?ランスなら、ちゃんと調べて行けるっていうのなら、いいんじゃねえのか?普通の薬師なら、死にに行くようなものだから止めるがな。エインヘリャル殿が認めているのなら、問題なく許可は下りる。祝福後に行くなら、構わんだろう」

「待ってください、鑑定長。祝福前の子になに、約束しているんですか?まだ、ちゃんとした職業やスキルを持っていないのに。止めるべきでしょう」

 案内のお姉さんは、怒ったようしゃべっている。

「ん?そうか、冒険者のことは疎いんだったな。エインヘリャル殿は、冒険者ギルド総本部長だ。その方がS級扱いと認めたなら、強さは最低大師団と同等。祝福後のランクがどうなるかは知らねえが、S級と同等の戦闘能力を認められているのに、止める理由がない。それに、ワイバーンの単騎討伐をして、A級でトップクラスのパーティー、輝く太陽を倒しているんだ。逆に祝福まで待つだけマシだ」

「それはどのくらい強いんですか?」

「説明しただろう」

「分からないから聞いているんです」

 ガスタンスさんは腕組みをして、唸っている。ちらっとこっちを見る。

「ランス、この王都を攻め落とすとしたら、どのくらいかかる?」

「攻め落とす?人を殺さないってこと?」

「王都を壊すとしたら?住めなくなるぐらいに。それで犠牲が出るのはしょうがないとして」

「どのくらいかな。うーん、ちょっと待ってね」

 王都にある結界は、作り出した魔法で壊れるから、発動すればいい。壊す、クリスタル?それだとちょっと時間かかるかな。

「がんばれば、10分はかからないと思う」

「じゅ、10、分。ええ?」

「納品しているのはクリスタルの魔法を使っているでしょ?それを大きさだけにして」

 手のひらを出して、小さいものから大きくしていく。ある程度の大きさにしたら消す。

「大きくしてから、落として壊す感じかな。ひたすら落としていく感じで。消滅なら炎ですぐだけど、冷えるまでに時間かかりそう。風だとどうなるのかな?でも、ミスリルが城壁に仕込まれてたら壊れないからね。風の刃が通るなら、時間はもっと早いかも」

「これで分かったか?S級っていうのは、俺たちの想像すら超えていく力だ。行ってもいいかどうかは、冒険者ギルドに聞いてくれ。ドラゴンの住む地域は特別な許可がないと入れないはずだ。薬師ギルド経由は、交渉したことがないから難しいぞ。冒険者ギルドはそういうところにも、冒険者を送り込むから許可を取るのが早いはずだぞ」

「なるほど。ドラゴンの住処へは冒険者ギルドで許可を取るんだね。行く前には生産ギルドで修行してから行きたいなって。防具とか武器とかいろいろ作ってみたい」

「何でも経験だ、やってみろ。総本部に行って紹介してもらえ。生産ギルド連合ってつながりもあるからな。総本部のある国には生産者ギルドの総本部が多い。いろいろ経験させてもらえば、自分の向き不向きも分かるだろう。若いんだからやれやれ」

 乱暴に頭をガシガシやってから、お姉さんを見る。

「こいつは規格外だ。冒険者の中でも一握りの存在だ。薬師でもすでに、誰にもマネできないことをやっているだろう。俺たちはランスが、やりたいことを出来るようにしてやるだけだ。それとやっちゃいけねえことは、止めてやらないといけねえ。教育ってやつだな。世間一般ってことをどうにか教えられるといいんだがな」

「それは普通、親に教えてもらえるのでは?」

「ランス、おまえ親は?」

「2人とも死んだよ。山の中で死にかかっていたときに、グリじいに助けてもらった。それでグリじいの家で、1人で生きられるぐらいの知識と技を教えてもらった。今は何とか出来るかなってぐらい」

 みんなが難しい顔をしている。

「そうですね、周りにいる大人が教えてあげるといいですね。してはいけないこととか」

「人のものを盗んじゃいけないって、教わったよ」

「かわいい」

 ガスタンスさんからオッホンと聞こえた。

「他には何かやっちゃいけないことは聞いてないか?」

「女の人の裸は見ちゃいけないって、領主街で教わった」

「ん!どういう状況で教わったんだ?」

「えっと、ゴミ屋敷の掃除してて、家の人も汚いかなと思ったから、簡易的にお風呂場を作ったの。そしたらその場で服を脱いで入っていった。それがソルで、あとからヘルセさんが来て、教えてくれた」

「普通はそうだ。あと、例外はある。夫婦や恋人なら同意があればいい。ただ、これは例外だ」

 ちょっと詰まりながら説明してくれる。例外もあるのか、覚えておこう。

「他には?」

「うーん。人や動物はむやみに殺してはいけないとか。襲ってきたり、盗賊とか敵はいいって教えてもらった。自分の身を守るために」

「人と動物は一緒なのか?」

「一緒かな?命は神から平等に与えられているんだよ。貴賤の区別なく等しく平等であるらしい。だから、好き勝手にしてはいけないって。みんな、生きるためにがんばっている。殺すなら自分の身を守るためや生きるために肉をいただくため、殺した理由を説明できるならいいと教えられた。何かおかしい?」

 ぼそぼそと教会の教義と違うようなと聞こえる。

「教会は人間至上主義になっている、その考えは教会ではいうな。昔は命が平等ってのはあったんだがな。神様は一緒で教義が変わっているだけだ。昔、聖女様の説教を受けたときは、命は神より与えられ平等であるって聞いていたんだが、どこでどう変わっちまったのか。教会は金集めのために教義を変更していったんじゃねえのかって、口が裂けてもいえないんだがな。その考えを持っているなら、教会には気をつけろ。吹聴、いろんな人にそうだって言いふらすと、教会から人が来て、分かるまで教義を叩き込んでくれる。すごい時間をかけてな。そんなことに、時間を取られるのはイヤだろう?」

「そんなのイヤだ。言わないようにする」

「それが一番。教会にはあんまりかかり合わないことだ」

 職員がやってくる。

「鑑定長、よろしいですか?」

 ガスタンスさんは、それじゃあなと軽い感じでついて行く。

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