新しい場所

「期限が一生に変更された。不履行にされて万年修復にかかるよりはマシか」

 誰かの声がする。

「うむ、妖精族が思いのほか世話に向いていなかったのが、原因ではあるか。このものを殺した妖精と女王は魔神様が直接呪いをかけて地獄の牢獄に入れたそうだ。耐えられず、ものの数分で消滅したそうだ」

 上でもいた白色と黒色の狼がいた。

「起きたか」

 山の中でどこにいるのかわからない。登らなくちゃ。

「下山するぞ。どこに行こうというのだ」

 頭がふらふらする。ち、力が入らない。四つん這いになるけど、それでも体を支えきれず地面に寝転ぶ。

「どうしたのだ、一体。寝転がっていては帰れぬぞ」

「衰弱しているように見えるのだが、身体の異常が見受けられない。顕現していてはよくわからぬ。天使殿、見てもらえぬか?」

 光が現れたことしかわからない。

「どうされたのですか?」

「衰弱したように見えるのだが、我らでは原因がつかめぬ。どうなっているか、探ってもらえないだろうか」

「魂に亀裂が入って徐々に進行しております。1度顕現を解かれて修復に力を注ぐべきです。まずい。このままでは・・・」



 目が覚めると、ベットの中にいる。自分の家のベットはこんなにフカフカじゃない。見たことない物、植物で埋め尽くされた室内にうっすらとフェンリル、スコルがいた。

「起きたようだ。どちらが顕現する?常にどちらかが魂を視ていないと亀裂が入ってしまう」

「私が顕現します。魂はお任せします」

 スコルが残り、フェンリルは見えなくなった。

「お主は本当に手間のかかる」

 面倒くさそうに言われた。

「殺せばよかったのに」

「助けたのにその言い草はなんじゃ?」

「頼んでない。誰のせいで死ねないのさ、何で願いを叶えてくれないのさ」

「・・・・・・主人のせいであった。すまぬ」

「いいから殺してよ」

 吐き捨てるようにシーツにくるまる。世界のために生かされるって。扉が開く音がして、いろんな匂いがしてきた。

「おお、女神の代行スコル殿。顕現されていたのですか。ちと、大きいのでウルフぐらいになってもらうと人の世界では良いですぞ」

「そうなのか?」

「あまり大きいと人間は怯えますので。人の世でランス君を生かすのであれば従魔として行動されるのが一番自然で力を見破られることは少ないであろうと申し上げたはずです。無駄なトラブルをお2人が呼び込みたいなら、止めはしませんが」

「そうであったな。助言、感謝する」

 何かごそごそと音がする。どうにかして、逃げ出さないと。

「ランス君、スープができているのじゃが、一緒に食べないか?」

 おいしそうな匂いにお腹が鳴る。お腹空いた。村ではみんなが食べた後のスープをもらって、食べていると殴られた。酔っ払いが家に来ることもあって、恐ろしかった。

「殴ったりしない?」

「そんなことはしない。君は何も心配せずに食べればいいんじゃ。今日はうまくできておるから美味しいぞ。出てきて食べよう。おいしいのう」

 たまらずに飛び出すと、湯気の立ち上るスープに飛びついた。美味しい。手を止めずに口に運んでいく。すぐになくなってしまった。

「いい食べっぷりじゃ。どんどん食べなさい」

 柔和な笑みを浮かべたおじいちゃんが湯気の立ち上るスープのおかわりをついでくれた。手が止まらない。どんどん口に運んでいく。美味しい、暖かくて。母さんが居なくなるまでは食べられたけど。

「まずは腹ごしらえ、今日はお腹一杯になったら寝るといい。疲れておるじゃろう」


「よく寝ておる。よく食べておったからまずは安心かの」

 老人はイスに座ったまま寝た子供を抱えるとベッドに横にする。元いたイスに戻り、食事を終わらせる。

「妖精達から人の子の面倒をみてくれないかと言われたときには何があったのかと思いましたが、世界の崩壊となれば協力いたしましょう。原因を聞いただけはこの世で珍しくもないと思いましたが、何度も蘇り地獄まで体験しているのに魂が消えず、戻ってこられた。それに幼馴染を的確に助けた判断、勇気は賞賛に値します。私に預けていただけるのですな?」

「我々では守護はできるが人の世のことは知らぬことが多い。大賢者グリゴリイ、ランスに生きる術を与えてやってくれ」

「隠遁した身でございますが、やれるだけは教えましょう。フェンリル殿にスコル殿もきちんと守ってください」


「食べられるもの、毒があるものを教えるぞ。自分でわかればお腹を満たすことができる」

「うん、教えて!」

「元気があっていいのう」

 おじいちゃんの名前はグリゴリイって教えてもらった。自慢のひげをよくなでている。僕の名前はフェンリル達に教えてもらったって。森の中にはいると色んな草、木の実、キノコと木々のことを少しづつ教えてもらって、帰ったら料理を教えてもらった。キチンと分量通りするのも大切だが、たまにわざと分量を変えるのも新しい発見があっていいのだと言われた。

「子供は覚えが良くて、教え甲斐があるわい」

 フォッフォッフォと機嫌良さそうに笑っては採っていいものを教えてもらう。


 1ヶ月くらい採っていいものを教わりつつ、薬の作り方も教えてもらう。潰したり、煮たり、干したり、抽出したり。抽出が難しい。


「とりあえず、教えようと思っていたものは全て教えた。これ以上は職業を貰わぬと危険だから教えられん」

「職業?15歳で貰えるのだよね」

「そうじゃ、ランスはまだもらっていないだろう?」

「農家」

「ん?ちょっとこの水晶に触れてみるんじゃ」

 返事をすると、手をおく。水晶の中で煙が渦巻いて文字が浮かびあがる。

「フェンリル殿、スコル殿。職業が与えられておるのを初めて見るのじゃが。教えて貰えるだろうか?」

「育ててもらうのだ。教えよう、ランスが最初に死んだときに、望みが叶えられぬ代わりとして神が全てをお与えになった」

「農家と出ておるのは?」

「魔神様が国によって縛られぬよう、偽装された。職業の祝福が与えられるまではこのままだ。そのあとは出しても大丈夫か?」

「何人たりとも知られてはなりません。偽装できるならずっとそのままで」

 グリじいがなんか焦ってる。

「では祝福後は自分で偽装させよう」

「その水晶を偽るぐらいでないと、教会にすぐバレてしまいます。偽れるよう修業いたしましょう。ですが、まずは正しい表示を見れないことには確認も出来ません」

「しばし待て」

 一瞬、光が降ってきた。

「終わった。確認出来るだろう」

「ランス、もう一度手をかざすんじゃ」

 言われたとおりにする。また水晶には煙が出てきて、今度はゴチャゴチャになって読めもしない。文字が多すぎる。

「大変じゃ、これではわからぬ」

「ランス、心の中で隠蔽と唱えてみよ。それからまた水晶に手をかざすのだ」

 フェンリルの言われるがままにやってみる。隠蔽、隠蔽。

「失敗か。初めてで成功するとは思っておらん。隠すことが出来ないのなら再び幼馴染みに会えぬと思え。生きておるぞ。精進せよ」

「また、会えるの?」

「ここでの修行が終わったら、村に戻るのだ。お前の家は妖精がみておる。安心して修行に励むのだ」

 帰りたくないんだけど。唯一遊んでくれただけ。

「不満そうな顔をしておるが、自分で腹を満たす術を得るのだ。他の者に害されながら糧を得る必要などない。大地と森の恵みで生きてゆけるのだ。不満があるのか?」

「ないよ」

 そうか、自分でどうにか出来るようになるための修行だ。もう、お腹を空かせなくていい。

「魔法は教えられるでしょうが、武技は教えることが出来ません」

「武技に精通した者はおらぬのか?」

「あやつは加減を知らぬ馬鹿者。森が破壊されます。そこは譲れません。辺り一面関係なく壊してしまうのですぞ」

 隠蔽、手をかざす。全然だめだ。隠蔽。

「では、壊れない場を用意すればいいのだな?」

「そうしていただけるなら、威力の高い魔法も教えられるでしょう」

「これでどうじゃ」

 静かになって、隠蔽を何度も練習をする。ちょっとはうまくなっているのだろうか?

「ズワルト、うまくなってる?」

 ここから出るときのために、フェンリルやスコルと呼んではいけないってグリじいが言うから、スコルをクロ、フェンリルがシロと色で呼ぶことにした。2人共スゴくイヤがった。名前を思いつかないし、センスとかなんとか言われてもわからない。あまりに嫌がるので、グリじいがフェンリルをウィット、スコルをズワルトと呼ぶように言われた。

「ふむ、わからぬかもしれぬが減ってきておるぞ。この調子で練習するのだ」

「うん」

 隠蔽と思いながら何度も何度も水晶をさわって、結果を確かめる。変わったようには見えない。わからないから、やるしかない。

 グリじいとウィットは明日からどっか行くらしい。修行の合間に材料は採ってくるようにと。どのくらいかかるかわからないと言っていた。帰ってくるまでに使えるように、課題だとグリじいが。終わらないとスゴいことになるって。


 なかなか消えない。2日経過して、たまに読めなくもない文字が見えてきた。いつ帰ってくるか、わからない。早く覚えないと。ひたすら作業を続けていく。いつになったら出来るようになるのだろうか。

「ランス、ご飯を食べろと言っているだろう」

 フラフラになりながら続けていると、ズワルトが水晶を隠してしまった。

「取りに行くぞ。ここに来て食事が出来るように教えてもらったのを忘れたのか?」

 そうだ、ご飯が大事!お腹が空いたらうまく考えられないってグリじいも言ってた。

 1人で採ってきてスープができる。ちゃんと1人で出来る。グリじいが教えてくれたから。食べながら、グリじいより美味しいような?気がした。ズワルトに言ったら、腹が空いているときはおいしく感じるものだと言われた。気のせいか。

 腹ごしらえが済むと元に戻された水晶で修行開始だ。

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