第24話
Dダンジョンを撤退した翌日。
聖女の回復魔法は人ならざる力があるのか、明らかに死んでいたと思うような怪我も今では存在していなかったと思う程には綺麗に完治していた。他のダンジョンでの特殊訓練はまだ終わってないようで、ティアとキャーロットはまだ帰ってきていないようだった。
ダンジョン以外の特殊訓練は他のダンジョン組が帰ってこないと行えないということで、学園に来たはいいものの自由時間が与えられた。折角だし本でも読んでみるかと思い、今は図書館で本を読んでいる。ーー何故か隣にマホがいるが。
「私って必要ある人間なのかしら。結局あの蜘蛛の前だと化物の時のように動けなかったし。私より弱いと思っていた貴女はあの蜘蛛を圧倒する力を持っているし。はぁー。はぁー。」
貧乏ゆすりをする絶賛病み真っ最中のマホ。活動的ないつもの様子は浮かばない程落ち込んでいて、殴られる心配は無さそうなのでそこはいいがいつまでも落ち込んでいるとこちらとしても困るものがあった。何というか、こちらまで気分が沈んでくるのである。昨日の騒ぎで目立ちたくないのに目立ってしまった挙げ句、マホに精神的攻撃をされるのは大分キツい。
「そんなに落ち込むこともないと思うぞ。私はマホのことを必要ある人間だと思うし。」
「本当?」
「……ああ。本当だ。」
「その微妙な間は何よ。はぁー。お母様にもこのままじゃ好きになって貰えないし……あっ。」
言った後で目を大きくするマホ。直ぐに表情を硬くして取り繕うとするもバレバレだった。やっぱりこいつは親に認められたい節があったか。もしかして強さを示したい理由やプライドが高い理由はそこにあるのだろうか。嫌な想像を本の内容片手に膨らませた。
「ちょっと……今の内容は忘れなさい。」
「いいよ。……っていうのは嘘。絶対に忘れないから安心して。神に誓っても忘れない。」
「しょうもない嘘をつかないで頂戴!! ……そんなところで神様使わないでいいから。宗教関連の人に聞かれたらマジで殺されるわよ。……ティアやキャーロットにもしも言い触らしたりしたら酷い目に合わせるからね。」
言ったら本当に殺してきそうな目付きで睨みつけるマホ。普通のマホなら既に拳を振るってそうだが、振るわれることは無かった。やはりまだ本調子ではないらしい。それでも、少しは落ち込みがマシになったように思えたので良かった。
「うーん。それじゃあ、私に高い高いされてみない?」
「突然何を言うのかと思ったら、高い高い? 私なんて貴女から見たら虫けら同然の赤ん坊のような存在と言いたいのかしら。……酷すぎじゃないかしら。土に沈めるわよ。」
「そんなこと思ってないよ。ただ、妹のような子に高い高いが好きな子がいてね。高い高いをすると凄い喜ぶんだよ。その子の応用で暗い気持ちも晴らせないかなと思ってね。」
「別にやらなくていいわ。」
「高い高いの注文承りました。任せて下さいお嬢様。」
「どういうことよ。ちょっと、止めなさーーッ!!」
聞き訳が悪いので無理矢理腰の部分を掴んで上に持ち上げる。言うことを聞いてくれないからいけないのだ。聞き分けの悪いマホが全て悪い。思春期を迎えたからかマホの腰はティアラの腰と比べると三倍以上大きかった。ティアラと比べるとボリュームのある腰だったが、それでも簡単に持ち上げられた。こうも軽いとどうやってあの力を出しているのか不思議である。そのまま上下にマホを動かす。
「どう、気持ちいい?」
「……遺憾だけど悪くはないわね。むしろ心地いいわ。だけど、はやく下ろしなさい。ここは図書館よ。遊ぶ場所じゃないわ。」
「正論だけど別に利用者は周りに居ないし別に遊んでもいいと思う。利用者が私達以外にいないからか司書さんも居ないし。」
「私が恥ずかしいのよ。下ろしなさい。下ろせ下ろせ下ろせ下ろせ。」
「バカっ、暴れるな。マホに本気で暴れられて対抗出来るわけない。」
「下ろさないのがいけないのよ。このっ。」
手足をバタバタと子供のように激しく動かすマホ。高い高いされているよりも俺はこちらの方が恥ずかしく思えたが、興奮しているようで気が付いてないようだった。痛い痛い。
流石にヤバイと思った俺はマホを床に下ろそうとすると、マホの脚が顔にクリティカルヒットした。フルスイングでバットをぶつけられたボールになった気がした。衝撃で一瞬頭の中が真っ白になる。気付いた時には背中から倒れる真っ最中だった。あ、ヤバイ。
「ちゃんと持ちこたえなさいよ!!」
「そんなん言われても無理。」
ーー出来れば痛くありませんように。
そう願った次の瞬間、重力に導かれて背中に衝撃が走った。しかし殆ど痛みは無い。ただ身体が衝撃で震えただけだった。
マホは俺の手が緩んだのを確認すると、俺の腹の上に飛び乗った。
「大丈夫?」
「……人のこと踏みつけながら言うことじゃない。一応は大丈夫。早く降りて。」
「高い高いの次はマットかしら。ふふふ。人間マットね。」
俺の腹の上で悪巫山戯か上履きで腹部にグリグリと擦り付ける。こいつエスか。楽しそうなのはいいが痛い。重くはないが力が強いので痛いのだ。マットやクッションとかだったら痛みは違うのかもしれないが下は床だ。ダイレクトでくる衝撃は続けていれば死んでもおかしくはなかった。
「ふざけるのはいいから降りて。痛い。」
「私のことは散々下ろそうとしなかったのに、私が言うことを聞くとでも?」
「ぬ……」
モードに入ってしまったのか食い下がらない。反論しようにも無理矢理高い高いを少し前にしたので言い返せなかった。マホを見るとこの状況を心の底から楽しんでいるように思えた。照らされ透き通るように光る水晶のようにマホの碧色の目が強く輝く。
「……だけど、可哀想だから降りてあげる。」
「え?……ありがとう。」
出てくると思わない言葉に反応が遅れたが何となくお礼を言った。
マホが腹から脚を浮かばせた瞬間、マホの足裏から強い力が加わる。ぐっ。腹筋に力を入れて圧迫に抵抗するとマホは足裏を床に近付けた。よし。そのままいけ。
しかし何を狂ったのか、床に脚を置く際に足首を変な方向に曲げて体制を崩した。上から布に包まれた大きな桃が勢いよく落ちてくる。グハッ。無防備な腹に大きな衝撃が加わった。
「いた……くはないわね。大丈夫そう?」
「……」
ジト目で大して心配してなさそうなマホを睨む。早く降りろ。
マホは興味なさそうに後ろを振り向く。すると、マホの瞳孔が大きく開いた。腹の上で桃尻が軽く揺れる。
「貴女……いえ、貴方かしら。やっぱり貴方男だったのね。他の女と比べて爽やかで興奮するような匂いがしたし、胸も小さいと思っていたのよ。」
マホの視線の先を見ると塔が立っていた。他は平地だというのに塔は縦に屹立していたのでとても目立っていた。それも興味深いことに先端が丸みを帯びている。それは、言わずもがな覚醒した我がSONであった。
この状況誤魔化せる訳もないので俺は軽く頷く。
マホの表情は見たことがないくらい恍惚とした表情で、発情してるように見えた。
「……そんなに存在感を示してるってことは良いってことよね? 私が何をしても。」
「俺にはティアが居る……」
まるで話など聞こえてないかのようにこちらに近寄ると、細長く白い指で顔の下部を掴まれた。まるで掴んだ獲物は逃がさないように。横暴さは影を潜めていただけでしっかりと生きていた。
引き寄せられ一寸もない程にマホの綺麗に整った顔が近付く。瞳はこれでもかと歪み激しく揺れていた。反抗しようとも、素の力で大きく劣っているのでどうしようも出来ない。試しに起き上がろうと脚に力を入れるも、瞬時に上から圧力を掛けられて組み敷かれた。
眠らせようにもここまで興奮していては眠らせることは出来ないように思う。
倫理観はどうとして付き合ってようが結婚してようが、その相手の女性以外と行為をすることは法律やルール的な観点から見て別に問題なかった。そもそも男の結婚例なんてここ数百年は右手の指で数えられるくらいしかないが。だから別にティアも嫌だと思うも、少し機嫌を悪くしただけで許しはしてくれると思うのだ。
だけど、せめて報告はしたかった。事後報告なんて最悪だろう。俺がティアの立場だったら仕方ないと割り切るしかないにしても、その前に一度切れてる自信があった。何事にも報告連絡相談は大事だ。特に異性に関しては。
マホに襲われましたといえばマホは捕まるだろうが、そもそもマホの臀部に起立したのがいけなかった訳だしそれも高い高いなんてしなければこうしたハプニングが起きる筈もなかった。それに、友達を自分の手で逮捕させるのは凄く嫌だったし襲うのは一種の女性の本能みたいな物もあるため見逃したかった。
そんな俺の気持ちも知らないでマホが慌ただしい様子で俺のドレスを捲る。汗などで湿っていたドレスの内部が空気に晒され、爽やかな感覚が下半身に広がった。鼻息を立てながら俺のを見て鼻穴を広げるマホはまるで獣のようだった。
ごめんよティア。
そう呟いた瞬間身体に電撃が走ったようにある感覚が走った。感覚の出所を見てみるとマホが布の上からこねくり回していた。俺も男である。列記とした三大欲求を保持した。それも生存本能が昨日の蜘蛛で刺激されたせいか、食欲と睡眠欲でないラスト一つの欲が大きく肥大した状態の。本人は気付いていないが、ノアの口は三日月を描くように開いていた。
ノアは辺りに認識阻害の魔法を最悪の事態を想定して掛けると、その後は本能に身を任せた。
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