愛しい想いの心のある一つの形

@Akatuki-217

第1話

 時折、あの人の肉をどうしようもなく自分のものにしたくなる。白い首筋にまるで吸血鬼のように噛り付き、柔らかな二の腕の肉を噛みちぎって、細く綺麗な指先の骨を鳴らしながら咀嚼した後、硬い太ももの筋肉を断ち切り、その全てを温かく流れる血と共に味わいたい。まるで獣が獲物の肉を喰い散らかすように、あの人の全ての肉に齧り付きたくてたまらない。


 そうして、私が肉を貪っている間は、あの人は私のことをずっと見ていてくれるだろうから。


 先に言っておくが、私は人間が食べたいわけではない。そんなやばい人ではないので勘違いしないでほしい。私が食べたいのは他でもないあの人の肉だけなのだ。いや、食べたいわけではないのかもしれない。ただ、私はあの人のことを物理的に私のものにしてしまいたいだけなのである。

 勿論そんなことをしなくとも、あの人の心が今私のもとにあることは重々承知している。しかし欲というのはどんどん溢れて止まらぬものだ、もっともっと、私だけのあの人が欲しい。その手段の一つが、肉に齧り付くことであるだけだ。

 それに、あの人の肉は美味しそうなのだ。肉がダメなら血液だけでもいいからくれないだろうか。じゅるり。兎にも角にも、私はあの人のものだというだけで、それがどうしても欲しくてたまらない。


 実は、あの人の身体で一番欲しいのは、外身ではなく中身にある。相手の心を手に入れたい、奪いたいなどという表現があるが、私はそれと同じくらい、あの人の心臓が欲しい。温かく一定のリズムを刻み、あの人を生かしているもの。あの人の体温と鼓動を感じる度、今すぐこれをあの人の身体から奪ってしまいたい、と思うのだ。

 あの人の身体を温めている、この心臓があの人の全てで、これを手に入れられたなら、私はあの人を私のものにできるのではないかと錯覚してしまう。味が美味しいかと問われると、それは多分、美味しくはないのだろうけれど。私はどうしても食べたいと思うのだ。

 あの人の生命を終わらせたいわけではないが、心臓は食べたい。不死身にでもなってくれないだろうか。難しい問題である。 


 一度だけ、あの人に伝えてみたことがある。あなたの肉が食べたいと。あの人は「だめ」と答えた。少し悲しかった。美味しそうな料理を食べてはいけない、と言われた時のような悲しさと、単純に拒否をされた、という事実による悲しさであった。

 しかしあの人が嫌がることをしたいわけではないので、今は肉を噛み千切らないでいる。

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