第254話 星繋ぎの夜会・帰宅後(3)

「何をすればいい?」


「ではまず、ネックレスの留め具を外してください」


 私は髪を掻き上げ、うなじが見えるようにシュヴァルツ様に背を向けた。微かにゴクッと唾を飲む音が聞こえた気がする。


「それでは、やるぞ」


 彼の指が慎重にネックレスに触れ――


「ぴっ!」


 ――たと同時に私のうなじにも掠って、その冷たさに思わず私は首を竦めた。


「な、なんだ!?」


 私の悲鳴に、シュヴァルツ様は手を離して飛び退いた。


「い、いえ。なんでも……続けてください」 


「うむ……」


 心臓がバクバクする。緊張に身を硬くしたまま、私は彼がネックレスを外すのをじっと待つ。

 ……けど。


「む? むむ? どうなっているんだ、これは?」


「留め具の端の突起を摘まんで、押し込んでから引っ張ると細い金具が引き出されます」


「は? 押して引く?」


「それを戻しながら斜め上にずらして引き抜くと外れます」


「な、斜め? 待て、まず突起がどれか解らん」


 部屋は薄暗く、光源はランタンのみだ。ただでさえ見えにくいのに、太く厚い将軍の指では細かい作業は難しい。

 しかも留め具は、それ自体が一つの宝飾品のようなデザインのクラスプだし。

 しばらく奮闘していたシュヴァルツ様は、諦めのため息をついてボソリと、


「ちぎっていいか?」


「やめてください」


 いくらしたと思ってるんですか、このネックレス。

 それから数分の後、なんとか無事にネックレスは外れました。

 さて、お次は……。


「ド……ドレスのボタンを外して欲しいのですが……」


 頼む方も恥ずかしい。

 ドレスの背中は共布のくるみボタン。背骨のラインに沿って短めのループ紐でぴったり留めてある。……のだけど。


「取りにくいぞ!」


 布は滑る素材だし、小さめのボタンが狭い間隔でいくつも並んでいるので、将軍の指では以下同文。

 シュヴァルツ様は額に青筋を浮かべながら、


「……裂いていいか?」


「ダメです」


 『留める』か『外す』の二択しかない部品に『破壊』の選択肢を増やさないでください。


「あの、やっぱりゼラルドさんを呼びましょうか?」


 恐る恐る確認してみると、


「呼ばんでいい」


 間髪入れず却下されました。

 ……まあ、後は寝るだけだからいいのですが……。

 今夜は長い夜になりそうです。

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