第244話 星繋ぎの夜会(14)
――ここからは、私ミシェル・テナーが実際に目撃したことと、当事者の証言と伝聞を繋ぎ合わせた話。
あの時は混乱していたけど……『事件』の全貌はこんな感じだ。
◆ ◇ ◆ ◇
王城の中庭を一巡りしたアレックスは、夕星の間に戻っていた。
「あのドラゴンのトピアリー凄かったなぁ! 何本も樹を連ねて刈り込む技術は鳥肌モンだぜ。もっと明るい時間に上から眺めたいな。シュヴァルツ様に頼めば物見塔に登らせてくれるかな?」
上機嫌に口の中で呟きながらガスターギュ家の者達のいる席に戻ろうとしていると、
「ねえ、そこのあなた!」
背後から呼びとめられた。振り返ると、そこには四人の若い貴婦人が。
「なんか用? ……ですか?」
訝しみながらも辛うじて敬語で聞き返すアレックスに、貴婦人達は顔を見合わせ「キャー」と歓声を上げた。
「あなた可愛いわね! いくつ?」
「あら、格好いいって言わないと失礼よ。どこの家の子かしら?」
「今日来てる従者の中ではダントツね!」
「その赤い髪、地毛? 染めたの? ウィッグ?」
いきなり華やかなドレスの貴婦人に取り囲まれ、矢継ぎ早に質問されて、彼女はたじろぐ。どうやら、少年従者に間違われているらしいことは会話から推測できた。
パーティーに同行する従者や侍女は見栄え重視なので、それを楽しみに来る紳士淑女も多い。侍従は貴族家の格を測る指針でもあるのだ。
……そんなこと、使用人一年生のアレックスには知る由もないが。
「いや、あの、オレ……急いでるんで」
貴婦人達の圧と噎せるような香水の匂いに、しどろもどろになりながら逃げようとするアレックスだが、相手は攻勢を緩めない。
「キャー! 『オレ』だって! かっわいい!」
「反応が一々初々しー!」
すっかり珍獣扱いだ。
「ね、向こうで一緒に飲まない?」
「ダンスは出来る? 踊りましょうよ」
「だから、オレもう戻んないといけないんですってば」
腕に触れてくる貴婦人の手をやんわり押し戻し、彼女にしては精一杯慇懃にその場を辞そうとしたが──
「そこのガキ! うるせーぞ!」
──そうは問屋が卸さなかった。
逃げ出すアレックスの進行方向に一人の青年貴族が立ち塞がっていたのだ。
年はトーマスと同年代か。ゴテゴテと宝石のついた重そうな黄緑色の夜会服の青年は、忌々しげに彼女を睨みつけた。
「下僕の分際で女に囲まれて調子に乗りやがって。身の程を弁えろ」
アレックスは「そんなのオレのせいじゃないだろ」と言い返しそうになるのをぐっと堪える。
赤い目元にふらつく体に、数歩離れていても判る酒の匂い漂う呼気。
……こいつ、完全に酔っている。
アレックスは経験上知っていた。酔っ払いには近寄るなと。
「はいはい、失礼しました。では、さよならー!」
形だけ頭を下げて、とっとと退散しようと思ったが、
「なんだ、その態度は!」
アレックスは泥酔貴族に回り込まれた!
「おい、お前。酒持って来い」
横柄に命令されて、アレックスは眉根を寄せる。
「は? なんでオレが?」
「下僕が貴族に逆らうな! 言われたことをやってりゃいいんだよ!」
いちいち怒鳴らなくても聞こえるのに。目の前の青年貴族があの頃の父親と重なってムカムカする。
以前の彼女なら、この時点でこの横柄な男に掴みかかっていたはずだ。でも今はガスターギュ家の使用人、掌に爪が食い込むほど強く指を握り込んで我慢する。
一方的に恫喝する貴族と、俯いて肩を震わせる従者。
それに気付いたパーティーの給仕係が場を治めようと近づいてきた。
「失礼致します、お客様。お飲み物ならこちらに……」
シルバートレイに載った何種類かのグラスを差し出すが、
「邪魔するな!」
青年貴族はそれを払いのけた。
―――
しばらく視点が錯綜して読みづらいかもしれませんがすみません。
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