第228話 星繋ぎの夜会・出発(3)
――胸が苦しいのは、締め付けるコルセットのせいだけではないだろう。
星繋ぎの夜会当日。私はアレックスに手伝ってもらって作りたてのドレスに袖を通していた。
青い造花が潰れぬようそっとドレスの胸に手を当てて深呼吸する。
……不安しかない。
成人してからパーティーに一度もお呼ばれしたことのないナンチャッテ令嬢の私が、いきなり国王陛下主催の夜会に出席するなんて無茶が過ぎる。
一応、母と家庭教師に夜会の作法を教わったけど、十年近く前の話だ。各種パーティーに出禁になる前の母や姉の支度を手伝っていたから、着付けとメイクはなんとなくできるけど、いざ自分の事となると何をしても自信がない。
「ミシェルすげー! お姫様みたい!」
結い上げた髪に真珠の髪飾りを付けた私に、アレックスがお決まりの台詞を言う。
鏡の中の自分は怯えたように眉を下げているけど、形だけは貴族令嬢に見える。
「ドレスとの統一感を出すために、余った造花を髪に盛るのはどうかな?」
私の身長を抜いた五歳年下の少女は、ひょいひょいと布のブルースターを軽く巻いた栗毛に挿していく。
「うん、完璧」
肩を並べて鏡越しにニカッと笑うアレックス。確かに、この方がドレスに合っているかも。
私の支度が終わったら、次はアレックスの番。といっても、従者のお仕着せは一人で着られるので、手伝うのは髪のセットだけ。長い赤毛を丁寧に
「なんか
すっかり従者の装いになった少女が、閉まっているドアを振り返る。耳をすますと、玄関ホールの方から内容までは解らないけど話し声が聞こえた。
「お迎えが来たのかしら」
馬車の手配はトーマス様がしてくださると言っていた。きっとそれが到着したのだろう。
「私達もそろそろ行かなくちゃ。アレックス、靴を取ってくれる?」
「うん」
スツールに座ってルームシューズを脱ぐ私に、従者少女が白いハイヒールを持ってくる。
「これ、すごくヒールが細くて高いよ。もはや
「……がんばる」
呆れるアレックスに苦笑しつつ、足を入れる。私もハイヒールは履き慣れてないけど、シュヴァルツ様との身長差を考えるとギリギリまで嵩増ししないとバランスが悪い。主役はあくまでシュヴァルツ様で、私は添え物。彼の見栄えが良くなるように私も努力しないとね。
「ほら」
アレックスに手を引かれ、私は立ち上がる。引きずりそうな裾も不安定なヒールも怖いけど、なんとか歩けそうだ。
「お、ミシェル背ぇ高い!」
ヒールの分だけ身長の伸びた私に、背を追い越された彼女がおどけて笑う。
「その靴いいな。今度オレにも貸してくれよ」
あら、アレックスがオシャレに興味持つなんて珍しい。
「うん、いいよ。いつでも使って」
嬉しくなって頷く私に、少女はやったー! と大喜びする。
「菜園の春の種まきの時、
……。
……使用目的が農具……っ!
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