第218話 みんなで買い物(2)

 男性陣、女性陣、それぞれの用事が済んだら合流してお昼ご飯。


「仕立ての方はいかがでしたか?」


 目についた料理屋に入り、注文を終えてから尋ねると、シュヴァルツ様は上目遣いに考えて、


「……黒かった」


「黒橡色です」


 すかさずゼラルドさんの訂正が入る。そこは譲れないこだわりのようです。


「サイズには問題なく、作業も順調な様子。実に仕上がりが楽しみですな」


「……俺は仕立て屋のオヤジの頬が昨日よりげっそりコケていたのが気になったぞ?」


 満足げな家令に、表情を曇らせるご主人様。……どうか無事に完成しますように。


「で、ミシェル殿の首尾は?」


「ええ。問題なく」


 頷く私の横で、アレックスが上機嫌で言う。


「面白かったぞ! アミアミだったりスケスケだったり穴が開いてるのとかいっぱい合った!」


 ……そういう報告はしないでいただきたい。私の買った商品には、ごく一般的な機能しかついていませんからね!

 ドレスインナーに小物一式。靴は合うサイズを探すのに手間取ったけど、必要な物は揃えられた。

 そして、最後の難関は……。


「お、来たぞ」


 給仕係が何人前か解らない大皿料理を次々に運んで来る様に、シュヴァルツ様は喉を鳴らす。

 私達は年末の忙しなさを暫し忘れ、お屋敷以外で囲む食卓を楽しんだ。


◆ ◇ ◆ ◇


 お腹が満ちたところで、次はいよいよ最終目的地。宝飾店へと向かう。


「いらっしゃいませ」


 タイトな制服に身を包んだ女性店員さんは洗練されていて舞台女優のように美しい。彼女は最初に店内に足を踏み入れた燕尾服姿のゼラルドさんをにこやかな笑顔で出迎えて……続いて入ってきたシュヴァルツ様・アレックス・私に頬を引きつらせた。

 ……無理もない。休日のシュヴァルツ様は髪はボサボサで無精髭、服だって適当だ。とても高級品を買いに来た客には見えない。そして、同じく服装に気を遣わないアレックスと、メイド服の私だ。店員さんもさぞや困惑しているだろう。


「ど……どうぞ、ごゆっくり。気になるものがあったら声を掛けてください。お客様に買える値段の……いえ、お眼鏡に適う品があればですが」


 オホホホと上品な愛想笑いを振りまきつつ、最大級の警戒の視線を送る店員。

 ……めちゃくちゃ店の格に合わない客認定されましたよ。そんないたたまれない空気を気にも留めず、シュヴァルツ様は鷹揚に店内を見回した。

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