第198話 ガスターギュ家の祝祭(2)
「んじゃ、早速植えようぜ」
庭師が植樹を取り仕切る。
「シュヴァルツ様の木は正門近く。じーさんのは裏の通用門の脇がいいな。オレとミシェルのは屋敷の左右に。今、スコップを持ってく……」
納屋へと向かおうとするアレックスを、シュヴァルツ様が「待て」と呼び止めた。
「丁度いいから渡しておこう」
そう言って彼は玄関ポーチの隅に置かれていた大きな麻袋を片手で運んでくる。
「これを使え」
ドサッと地面に置かれた袋をアレックスが開けてみると、
「うわっ! すげぇ!」
中には片手用のシャベルや移植ゴテや剪定ばさみから、ツルハシや大振りなスコップ、レーキまで、庭仕事に欠かせない道具がどっさり入っていた。
「軍の土木部門の放出品だ」
「金属部分がピカピカだ! しかも軽い!」
新品の道具に大はしゃぎのアレックス。彼女は、仕事には父親のお下がりや納屋に残っていた用具を使っていたから、自分専用の道具は初めてなんだよね。
「これ、オレにくれるの?」
「ああ」
目をキラキラさせる庭師に、当主は頷く。
「わーい! ありがとう、シュヴァルツ様! 最高のプレゼントだよ!」
大きなスコップを抱きしめてピョンピョン跳ね回るアレックス。そんな少女に、将軍は一言。
「違う」
……。
「……へ?」
キョトンと固まるアレックスに、シュヴァルツ様は表情を変えずに続ける。
「それは家の備品だ。プレゼントではない」
……ですよねー。そう思いました。
「祝祭のプレゼントはこっちだ」
彼は呆然とする彼女の手を取ると、掌にナイフの柄に似た形状の木製品を置いた。側面に金属のプレートが挟まっているように見えるそれは、
「なにこれ?」
「
「多機能?」
アレックスが訝しみながら爪の先でプレートを一枚引き出すと、そこには鋭いナイフの刃が!
「うお、かっけー! ナイフになった! 他にもハサミと目打ちとやすりとノコギリが入ってる!」
収納されている道具を引き出してはその都度驚喜するアレックス。
「気に入ったか?」
「はい! ありがとうございます、シュヴァルツ様!」
プレゼントを両手で握りしめて笑顔する少女に微笑み返し、シュヴァルツ様はゼラルドさんに向き直る。
「ゼラルドにはこれを」
差し出したのは黒い小箱。
「海に縁があると聞いていたから」
中には螺鈿細工のカフスボタンが入っていた。
「これはなんと……! ありがたき幸せ」
ゼラルドさんは膝におでこが着くんじゃないかというくらい深々と頭を下げる。
私には「綺麗だなぁ」くらいしか判らないけど、目利きの家令がこれほど感激するのだから、相当な逸品に違いない。
シュヴァルツ様はゼラルドさんに大きく頷いてから、今度は私に目を移した。
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