第192話 ガスターギュ家の祝祭・準備(2)

「……パーティー?」


「そうです!」


 訝しむシュヴァルツ様に、私はコクコク頷く。


「今からだとお客様を呼ぶような大きな催し物は準備できませんが、家の中だけでささやかなお祝いをするのはどうでしょう?」


「お祝い、か。どんなことをするんだ?」


「同じ場所に戻ってくる星巡りになぞられた遡河魚の蒸し料理や、星型に切った果物をたくさん入れたドーナツ型のミントゼリーを食べます。他にもごちそうをたくさん作りますよ」


「……なかなかいい風習だな」


 ゴクンっと将軍の喉が鳴る。


「あと、みんなでプレゼントを贈り合うのはいかがでしょう?」


「プレゼント?」


「はい。祝祭では、日頃の感謝と親愛の印にプレゼントを用意する慣例があるのです」


 大人数なら、誰に何が当たるか判らないプレゼント交換も楽しいけど、ガスターギュ家は四人だから、それぞれ選んでもいいかな、と思ったのだけど……。


「それは……どうだろうな」


 途端に眉を寄せて難色を示すシュヴァルツ様。


「プレゼントはダメですか?」


 なにか悪いことを言っちゃったかな? 不安になって見上げる私に、彼は難しい顔をする。


従業員お前達だけで物を贈り合う分には問題ない。だが、家の行事として雇用主おれが音頭を取れば、それは強制になってしまう。雇用主が従業員に金銭的負担を掛けるのはよくない」


 ……ものすごく重大な捉え方をされていました。

 シュヴァルツ様はブツブツと思い悩んでから、はっと顔を上げる。


「では、俺が皆に金銭を渡して、各自に渡すプレゼントを用意してもらうのはどうだろう?」


「……それだと、実質全部が『シュヴァルツ様からのプレゼント』になってしまうのでは?」


 ガスターギュ家は福利厚生が手厚すぎます。


「だが、プレゼントの習慣は悪くない。感謝を形として伝える機会があるのはいいことだ。俺もミシェル達には何か贈りたい」


「……私はもうたくさんいただいてますから、お気になさらずとも……」


 優しく微笑むシュヴァルツ様に、頬が熱くなって思わず俯いてしまう。……本当は私も、シュヴァルツ様になにか贈る口実が欲しかったのです。

 店員さんにドリンクのお礼を言って、私達は歩き出す。


「それでは、帰ったらアレックスとゼラルドさんに相談してみましょうか?」


「そうだな、民意は大事だ。まあ、プレゼント云々はおいておいて、身内で祝賀料理を囲むくらいなら反対はないだろうがな。美味いもんを食う機会を逃すのは勿体ない」


「ですね」


 シュヴァルツ様は使用人私達をなんのてらいもなく『身内』って言ってくれるから嬉しい。


「あ、そうだ」


 青果店の前で大振りのかぼちゃを物色しながら、私は思いついて傍らでのシュヴァルツ様を振り返る。


「身内だけと言いましたが。呼びたい方がいらっしゃいましたら、お客様が増えても大丈夫ですよ。トーマス様とか」


 将軍補佐官の彼はこういうイベント好きそうだよね、と何気なく発言したのだけど……。

 上官はすっと黒い瞳から感情を消して、


「呼ぶな」


 ……三文字で断られました。

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