第185話 護身術を習おう(2)
ゼラルドさんは木剣を一本手に取ると、慣れた仕草で正眼に構えた。
「昔はこういう得物で訓練致しましたな」
風を切って左右に剣を振り軽快にターンを決めると、腰を落とし、剣先から腕までを一直線に伸ばした突きのポーズで動きを止める。年齢を感じさせない華麗な演武に、アレックスも私も拍手喝采だ。
「おー! じーさん、かっけぇ!」
「ダンスみたいで綺麗でした!」
「いやなに、昔取った杵柄ですな」
照れた風に口髭を撫でる老家令は、満更でもなさそうだ。
「ところで、これはどうしたのですかな?」
「納屋を片付けてて見つけたんだ。多分、先代の……」
ゼラルドさんとアレックスが話していると、
「何をしているんだ?」
次に現れたのは、お屋敷の当主であるシュヴァルツ様。彼は今日は午後から出勤とのことで朝は起こさずに居たのだけれど、庭で騒いでいる私達に気づいて下りてきたみたいだ。
「おはようございます、シュヴァルツ様。すぐ朝食の用意をしますね」
挨拶する私に「後でいい」と言った将軍の意識は、すでに別の方にあった。
「木剣か。こんな物が家にあったのか」
シュヴァルツ様は並べられていた木の武器の中から一番太く重い物を拾い上げた。彼が持つと、長剣も細身のナイフに見える。
「さっき、ゼラルドじーさんが剣振り回してたのカッコ良かったんだぜ!」
隣で家令が「これ!」と肘打ちするのも聞かず、庭師少女は子供用の木剣を手にゼラルドさんの型の真似をする。
シュヴァルツ様は掌で剣身を叩いて強度を確かめると、燕尾服に目を向けた。
「一戦どうだ? ゼラルド」
主の誘いに、家令は白い眉を跳ね上げた。
「
謙遜を紡ぎかけた唇が止まる。
「……いえ、天下のガスターギュ将軍の胸を借りれるとは、武人の誉れ。喜んでお相手致しましょう」
好奇心と自尊心を抑えられず、少年のように瞳を輝かせるゼラルドさん。……ああ! いつもは止める人の方が乗り気になっちゃってるっ!
「あの、木とはいえ、武器は危ないんじゃ……」
私は慌てて割って入ろうとするけど、
「そこの芝生の辺りがいいだろう。罠がない」
「久し振り故、加減が利かぬやもしれませぬがご容赦を」
「ほう、俺に加減が必要だと思うか?」
「言葉の綾にございます。せっかくのシュヴァルツ様との手合わせ、全力で望ませて頂きます」
「二人共、がんばれー!」
ひぃっ! 誰も私の話を聞いてくれません。いえ、二人共軍人ですから、こういう鍛錬は慣れているのでしょうが……私が慣れていないのですよ!
ハラハラする私を余所に、主従が剣を構える。
……かくして、
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