第180話 それぞれの役割(2)

 夕食の片付けが終わると、あとは自由時間。

 拭いた皿を棚に戻した私は、厨房のテーブルで一休み。お湯を沸かして、自分の為だけにお茶を淹れる。

 かじかんだ手をカップで温めながら熱い液体を口に運んでいると、


「こんなところにいたのか」


 シュヴァルツ様がひょっこり顔を出す。


「何飲んでるんだ? 俺にもくれ」


「はい」


 対面のスツールに座る彼に、私は新しいカップを出してティーポットに残っていた紅茶を注ぐ。


「果物の香りがする」


「茶葉に乾燥させたリンゴとオレンジの皮を混ぜました」


 こまめにドライピールやドライハーブを作っておくと、料理やお茶に使えて便利です。実家では貧乏くさいって笑われたけど……。


「うん、美味いな」


 柔らかく眉尻を下げるシュヴァルツ様。

 喜んでくれる人がいると、やり甲斐がある。


「で、何かあったのか?」


 不意に尋ねられて目を上げると、頬杖をついた彼がじっと私を見ていた。


「夕食の時から沈んだ様子だった」


 ……あ。バレましたか。


「な、何もないですよ」


 私は笑ってはぐらかそうとするけど、シュヴァルツ様が視線を逸らさないので、


「大したことじゃないんですけど……」


 誤魔化しきれなくなってしまう。


「ただちょっと……自分の能力のなさを痛感してしまって」


「どういうことだ?」


 ……追求されると更に痛いのですが……。

 私は紅茶で唇を湿す。


「……ゼラルドさんは、すごいです。博学で何でもスマートに卒なくこなして。まさに完璧な上級使用人です。王都に来て日が浅いのに、お屋敷の資産状況を把握していて、業者の知り合いまで作って」


 私は顔見知りなんてご近所さんと市場の店員さんくらいだ。


「アレックスも、植物の知識は豊富だし、身軽で園芸道具の使い方も熟知しているから高所作業も上手で。私に出来ないことを率先してやってくれます」


 彼女なら、安定感のない椅子に上って怒られるなんてミスはしない。


「二人が来て、私はとても助かっています。なのに……私は、ここに来てから何一つ変わってなくて。……このままでいいのかなって」


 堪えられないため息が零れる。

 否定されるばかりの人生だったから、ふとしたことで簡単に不安になってしまう。


「私は……お屋敷のお役に立てているのでしょうか?」


 ……私は誰かに……あなたに必要とされていますか?

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