第122話 秋の楽しみ(1)

 秋、それは彩りの季節。

 青々と生い茂った木々が赤や黄に色を変え、人々の目を楽しませる。そして、カラフルな葉を地上に落とすことで、皆に迫りくる冬への支度を急かす。


 ――私は、この季節があまり好きではなかった。


 毎年、掃いても掃いても落ちてくる枯れ葉に埋もれ、うんざりしていたから。

 でも、今年は……。


「よーし! この穴に入れるぞー!」


 アレックスの声を合図に、箒で庭の落ち葉を穴の中に落としていく。


「あ、太い枝は入れないでよ。葉っぱが溜まったら生ゴミを混ぜて、足で踏んで嵩を減らして、また落ち葉を入れて、踏んで……」


 アレックスの身の丈程もある穴が、どんどん落ち葉で埋まっていく。


「最後に土をかけて完成だ!」


 地表近くまで積み上がった落ち葉の穴をスコップで埋めて、アレックスは白い歯を見せる。泥のついた手の甲で額の汗を拭いたお陰で、顔まで泥まみれだ。

 昼食を終えた午後は使用人総出(といっても三名だけど)でお庭のお掃除です。

 昨夜風が強かったせいで庭木の葉がたくさん落ちたので、一気に片付けてしまおうということになりました。

 そこで出た大量の落ち葉の処分にあたって、


「腐葉土を作ろうぜ」


 と言い出したのは、庭師のアレックス。


「ほら、この家の庭、穴だらけだから落ち葉詰め放題だぜ!」


 最近は庭のレイアウトはある程度アレックスが任されているから、罠を一つ潰すくらいなら問題ありませんが……。落とし穴を全部コンポストにしたら、さすがのシュヴァルツ様も怒ると思いますよ?

 とりあえず、庭のプロであるアレックスと軍事コンサルタントのゼラルドさんが水捌けが良く防犯面で問題のない落とし穴を選び、温床にしました。


「これでたまに混ぜれば春にはいい腐葉土ができるよ。あ、ミシェル、うっかり踏むなよ? 発酵が進んだ温床は、落とし穴並に危険だから」


「うん」


 杭とロープで境界線を張りながら言うアレックスに頷く私に……彼女はちょっと不思議そうに首を捻った。


「ミシェル、何笑ってるんだ?」


「え!?」


 指摘されて、私は慌てて頬を抑える。わっ、表情に出てた?


「ううん、なんでも。ちょっと……落ち葉掃除が楽しかっただけ」


「楽しい? どこが」


 面倒なだけじゃんと露骨に顔を歪めるアレックスの額の泥をハンカチで拭いながら、私は苦笑を返す。

 楽しいよ。

 だって、去年までは無限に落ちてくる木の葉に俯いてため息ばっかりだったのに。

 今年はあっという間に片付いて、落ち葉の活用法まで考えちゃうんだもん。


「お嬢さん方、疲れたでしょう。紅茶を淹れますよ」


 掃除道具を片付けながら、ゼラルドさんが呼んでいる。


「オレ、さくらんぼ風味のお茶がいいー!」


 途端に元気にテラスへ駆け出すアレックス。後頭部で一つに纏めた髪が、子犬の尻尾みたいにぴょこぴょこ揺れている。

 秋晴れの空はどこまでも高く澄んでいて、何気ない日常が鮮やかに輝いていて……。


「楽しいなぁ」


 自然と笑みが零れた。

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