第104話 みんなでお出掛け(5)

 最後に訪れたのは、屋外調理器具コーナー。

 日常的にガーデンパーティーが開かれるこの国では、屋外調理器具も庭仕事の道具の内だ。


「お! 閣下、屋外グリル買うんですか?」


 鉄板と焼き網を交換できる大型の焼き台を物色するシュヴァルツ様に、トーマス様が興味津々でついて回っている。


「じゃあ、今夜は閣下のお宅でバーベキューしましょう!」


「勝手に決めるな」


「いいじゃないですか。俺が肉買いますよ」


「破産するぞ?」


「させないでください。ちょっとは遠慮しましょうよ」


 シュヴァルツ様の宣言に、真っ青になって震え上がるトーマス様。

 ……破産まではいかなくても、一ヶ月のお給金は余裕で飛びそうですよね。


「肉焼くの? 俺も食いたい!」


「いいよー。たくさん食べて大きくなりなね」


 手を上げて立候補するアレックスの頭をなでなでして、「バカにすんな!」と怒鳴られるトーマス様。

 ここに来てから何度かアレックスの言葉遣いは注意したのだけど、トーマス様が「内輪だけの時は構わないよ」というので目を瞑っています。

 ……いつの間にかトーマス様が自分をガスターギュ家の身内と認識していた件は置いておいて。

 なんだかんだでシュヴァルツ様も部下を追い払えないので、今夜はバーベキュー開催の運びになると思います。

 カノープス様からの贈り物の残りもあるし、食材には困らないかな? と頭の中で貯蔵庫の備蓄品を確認する。


「ミシェル、この台はどうだ?」


 呼ばれて私はシュヴァルツ様に駆け寄る。

 彼が選んだのは、円筒形の蓋付きグリル。焼くだけでなく、燻製器スモーカーにもなるタイプだ。


「燻製窯も欲しいと言っていただろう?」


 何気ない会話を覚えていて、意見を汲んでくれるのが嬉しい。


「はい。これがいいと思います」


 元気に頷く私の背後では、トーマス様とアレックスが何やら雑談をしている。


「あ、これ買おうよ。一家に一体必需品!」


 将軍補佐官は無数に並んだ陶磁器のトンガリ帽子に白ヒゲの人形を指差す。


「この子にしようかな。あ、名前は『アレックス』ちゃんね」


 くるっと目の丸い愛嬌のある一体を手に取ったトーマス様に、庭師の少女は露骨に眉根を寄せた。


「なんでノーム人形にオレの名前つけるんだよ?」


 アレックスの抗議に、トーマス様はさらりと、


「庭の守護者って意味だよ。ガスターギュ邸の庭は君が管理するんだろ?」


「ま、まあな! オレは専属庭師だからな!」


 満更でもない様子で照れ笑いするアレックス。

 上手く丸め込まれたみたいだけど……。裏の意図を感じるのは、私の勘ぐりすぎかしら?


 一つの家で人が出会い繋がりが生まれ外へと広がっていく。

 当たり前のことだけど、人生って面白い。


「では、帰るか」


「はい」


 すべての買い物を済ませ、帰路に着く。

 馬車の座席が行きと同じ並びだったのは……まあ、いいです。

 夜は予告通り、トーマス様提供のお肉で楽しくバーベキューをしました。(トーマス様は懐具合のことでちょっぴり泣いてたみたいです)


 そして……。

 猫足のテーブルセットの置かれたテラスは、私の一番のお気に入りスポットになりました。

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