第103話 みんなでお出掛け(4)
苗木や肥料を揃えた後は、いよいよ
園芸店の一角には、カフェテリアのオープンテラスのようにお洒落なテーブルセットやベンチが所狭しと溢れている。見本の
こんなところでお茶したら、さぞかし優雅な気分になるだろうなぁ。
……実際の我が家のお庭は、罠の張り巡らされた危険地帯なのですが。
玄関の東側に面したガスターギュ邸のテラスはあまり広くないので、置ける庭園家具はテーブル一台とセットの椅子二脚、余裕があれば三人掛けベンチが一台あるといいかなといったところ。
家具に興味のないシュヴァルツ様は「好きにしろ」と早々に籐編みのソファ(売り物)に腰を下ろしてしまったので、残りの三人でテーブルセット選び。
「オレは断然無垢材だな!」
アレックスが白木のテーブルに手を置いて主張する。
「木の温もりを感じられるし、経年変化も楽しめる。長く使えば使うほど味が出るぞ」
自信満々の彼女に、
「いやいや、俺は大理石を推すね」
続いてトーマス様がプレゼンしたのは、重厚な石のローテーブルセット。
「屋外で使うものだから、水に強い材質じゃなくっちゃね。それに、丈夫。ガスターギュ閣下が乗っても壊れない」
……上官で耐久力を計らないでください。
「えー。石なんて重いし冬冷たいし夏熱いじゃん。木がいいって!」
「木なんて腐るしカビるしキノコ生えるよ? 石の安定感は悠久だね」
※アレックスとトーマス様の意見は、あくまで個人の感想です。
睨み合った二人は、やがてくるりと方向を変えて私に回ってきた。
「ミシェルは木だよな!」
「ミシェルさんは石が好きだよね!」
「あの……」
詰め寄られておずおずと、
「……私は、これがいい……です」
指し示したのは、猫足のアイアンフレームに天板と座面がモザイクタイルのテーブルセット。カラフルなタイルで作られた幾何学的な花模様がとても可愛い。
私のお気に入りに、二人は顔を見合わせて、
「「それはない」」
ええぇ!?
「金属製は手入れがめんどいぞ」
「可愛すぎて、閣下の邸宅には合わないんじゃないかな」
※あくまで個人の感想です。
……うぅ、全否定されてしまった。
「そろそろ決まったか?」
がっくりと肩を落とす私の背後から、シュヴァルツ様が声を掛けてくる。
「三人の意見が割れてるんです。シュヴァルツ様はどれがいいですか? オレは絶対これ!」
アレックスが無駄のない洗練されたデザインの白木のテーブルセットを見せる。
「俺は石製です。質実剛健、ガスターギュ閣下にぴったりです」
お世辞を交えつつトーマス様が推薦するのは、膝の高さの滑らかな大理石のローテーブルとスツールのセット。
「私はあれなんですけど……」
……ダメ出しされまくった後なので、言いづらい。
シュヴァルツ様は三人三様の品をちらりと流し見して、
「ミシェルの選んだ物にする」
「「えー!?」」
瞬間的に不満を叫んだのは、私を除く二人だ。
「今、ちゃんと吟味せずに決めましたよね?」
「ミシェルが選んだから、それにしたんだろ! 贔屓だ!」
トーマス様とアレックスの抗議に、
「贔屓して何が悪い?」
シュヴァルツ様は事も無げに返す。
「ミシェルは
家長であり上官である人物の主張に、使用人と部下は丸くなった目をあわせて……、
「ちょっと! お屋敷の当主からそんだけの信頼を得てる家人なんて、最早奥様だろうが。シュヴァルツ様とミシェルって結婚してたのかよ!」
「いや、それが付き合ってもいないらしい」
「うっそ!?」
「しかも、出会ってまだ二ヶ月弱だよ」
「マジで!? もう何十年も連れ添った熟年夫婦の貫禄醸し出してるんだけど!」
……ひそひそしているつもりみたいですが、全部聴こえてますよ。
「ほら、決まったら次に行くぞ。買い物はまだあるのだから」
「了解であります」
「あ、待ってよー」
店員に品物を馬車に運ぶ手配をして、シュヴァルツ様はさっさと屋外家具売り場から離れていく。それを追いかけるトーマス様とアレックス。
私も三人の背中についていきながら――
……本当は、一介の使用人がご主人様に特別扱いされて喜ぶなんていけないことだけど……。
――どうしてもにやけてしまう頬を抑えるのに、とても苦労していました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。