第88話 お庭のこと(1)
天気のいい休日の過ごし方は、お庭造りが定番です。
雑草をむしって芝を刈り、ようやくお化け屋敷から生身の人間が住んでいそうな家にランクアップです。
ただ、視界重視で庭木の枝葉を払っているので、外観が歪になっているのがちょっと残念です。シュヴァルツ様は気にしていないようだけど、屋敷の囲いの外側から見える樹木は
……外壁の周辺には罠がたくさんあるみたいだから、迂闊に他人を敷地内に入れるのは怖いです。
「シュヴァルツ様、休憩しませんか?」
冷えたレモネードのグラスを手に私が呼びかけると、花壇でしゃがみ込んで作業していたシュヴァルツ様が振り返る。つば広の麦わら帽子を被り、首には手ぬぐい、手には鎌。土いじり仕様の彼は、帆布製の作業用手袋(私作)を外しながらこちらに歩いてきた。
玄関ポーチに直に座って、二人でレモネードを啜る。
「このジュース、さっぱりしてて美味いな」
「ミントシロップを入れてあるんですよ」
裏庭を覆い尽くすミントの群生を発見した時は眩暈がしましたが、駆逐する勢いで摘みまくってシロップやリキュールや乾燥ハーブにしました。……多分、また来春には生えてくるだろうけど。
ミントは使い道は多いけど、地植えだと一気に増えるのが難点です。実家にも生えてて、私がこまめに抜いていたけど、今はどうなっていることやら。見に行かないけどね!
「綺麗になりましたね」
平らに均された庭にしみじみと感想をいう私に、
「ああ、すぐ近くにあれが埋まってるなんて気づかないだろう」
シュヴァルツ様はグラス片手に飄々と返す。
……あれってなんですか?
「罠が不自然に見えぬよう、普通の庭らしい区画も作りたい。なにか植えたい物はあるか?」
あくまで偽装目的なのですね。それなら、
「菜園のスペースが欲しいです」
「菜園?」
「お家で野菜を育てるんです。採れたて野菜は美味しいんですよ」
「ほほう。有事に備えての自給自足か」
感心したように眉を上げるシュヴァルツ様。
……そこまで大仰じゃありませんが。畑の区画は確保できそうです。
「あと、テラスにテーブルセットを置きたいです。今日みたいな日にお庭でお茶ができるように」
玄関ポーチに座り込んで一服する光景は、ちょっとお行儀が悪いので。
私の二つ目の提案にも、シュヴァルツ様は乗り気で頷く。
「そうか、ならば屋外グリルも置くか。いつでも肉が焼けるぞ。外での飯は野営を思い出して好きではなかったが、敵襲の不安がない場所なら味わって食べられる」
海での浜焼きが楽しかったらしいです。
でも、広いお庭なら煙を気にせず大きな食材が焼けるから、料理のレパートリーも広がるかも。燻製窯を作ってもらうのもいいな。
「屋外グリルがあったら、ちょっとしたガーデンパーティーもできますね。トーマス様もお呼びすれば?」
私も顔見知りのシュヴァルツ様の部下のお名前を出すと、彼は途端に顔を顰めて、
「あいつは呼ばんでいい」
……シュヴァルツ様って、どうしてトーマス様への対応が塩なのでしょう……?
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