第11話 朝食(実食)

「お待たせしました」


 ダイニングテーブルに着いたシュヴァルツ様の前に置いたのは、バスケットに盛られた掌大の白パン10個とプレーンオムレツと厚切りベーコンと野菜サラダ。昨日の将軍の食欲的に卵4個使ったけど、我ながら良い焼き具合のオムレツになりました。

 ナイフとフォークを持ったシュヴァルツ様は、私と朝食の皿を見比べた。


「お前の分は?」


 それは勿論、


「使用人はご主人様とは……」


「命令」


「……はい」


 ……結局、同じメニューを同じテーブルで食べることになりました。

 広いテーブルの上座にシュヴァルツ様、右手側に私が座って食事を始める。

 私が自家製マヨネーズをつけたブロッコリーを齧っていると、


「なっ!?」


 突然、傍らのシュヴァルツ様がオムレツを口に運んだフォークを咥えたまま凍りついた。


「な、んだ……これは……」


 唇を戦慄わななかせて、重低音を絞り出す。

 ……な、なんか失敗しちゃったかな?


「あの、何かお気に召さないことでも……?」


 私が恐る恐る尋ねると、将軍はカッと目を見開いて、


「オムレツが美味すぎる! 卵とはこんなにも劇的に美味い料理になるのか!」


「あ、ありがとうございます」


 ごく普通のプレーンオムレツですが。


「いつもは黄身の周りが黒くなったゆで卵しか食べていなかったぞ」


 ……それは茹ですぎです。


「パンも美味いな。温かくて、いい香りがして柔らかい。何もつけなくても、噛むとほんのり甘みがある」


「焼きたては特別美味しいんですよ」


「いや、それだけではないだろう。前線要塞のパンはカビ臭くて釘が打てた」


 ……え? パンの話ですよね、それ??


「王都に来てからもパンは食べてきたが、焼きたては初めてだな」


 シュヴァルツ様は次々にバスケットの白パンを口の中に収めていく。


「ベーコンも焦げる直前までカリカリに焼いてあって、脂が香ばしい。塩漬け肉など、しょっぱい靴底だと思っていたぞ。それにサラダ! 萎れていない野菜など実在したのだな!」


 一々オーバーな感想を添えつつ、朝食を平らげるシュヴァルツ様。

 この方、食いしん坊なのに、あまり充実した食生活を送って来なかったようだ。

 ……これからは、いっぱい食べて欲しいな。


「おかわり、持ってきましょうか?」


 空になったお皿に私が手を差し出すと、彼は私のお皿にちらりと目を遣って、


「いや、いい。そろそろ出掛ける時間だから」


 そっと見ないフリをして立ち上がった。

 ……あ、私がまだ食べ終わってないのを確認して、遠慮したんだ。私が食事を中断して、おかわりを作りに行かないように。

 使用人に気を遣わなくていいのに。

 でも……ありがとうございます。


「シュヴァルツ様の今日のご予定はどのようになってらっしゃいますか?」


「平日は軍総司令部勤務だ。休日祝日は暦通り」


「承知しました」


 お役所勤めってことね。ということは、終業は日暮れくらいか。


「俺は部屋で着替えてくるから、お前はゆっくり食ってろ」


「ありがとうございます」


 ダイニングを出ていくシュヴァルツ様を見送って、私は食事を再開する。

 私の倍以上の量を盛っても、私より早く食べ終わっちゃうんだから、シュヴァルツ様はすごい。


「それにしても」


 ちらりと確認すると、バスケットは空っぽだ。


「……夕食のパンも一緒に焼いたつもりだったんだけどな……」


 私が一つ確保した以外、シュヴァルツ様は9個のパンを全部食べてしまった。

 ちょっと彼の食欲を侮ってました。

 でも……喜んでもらえて嬉しいな。


「夜はもっとたくさんパンを焼こう」


 私は緩む頬をそのままに、オムレツを口に運んだ。

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