最終章 『大罪の大魔王』

プロローグ 『罪を背負って』


 最強勇者と『皇龍』による勇者と大魔王の決戦から3カ月が経過した。


 アイシャとラプラスが記憶を戻され、愛火と凛菜になってしまったという大事件は、また今度詳しく記しておきたいレベルで濃いモノだった。

 凛菜は覚悟して飛び込んできたので、さすがにある程度冷静で、今後やるべきこともすぐ把握して取り組む柔軟性を見せてくれたが、愛火はそんなわけにもいかず、落ち着くまでに1カ月くらいかかった。


 立派な大魔王と呼べるアイシャはいなくなり、強さは変わらないが争いをそこまで好まない愛火になったので狙われると怖いところである。



「まぁ……久々に恋人として過ごせたから良い部分もあったな」



 もしかしたら最後になるかもしれないってことで存分に2人の時間も楽しんだので、残すところは最終決戦だけであり、愛火と凛菜は『天狐』というウチの新たな魔物に任せてあるので好き放題暴れるだけだ。


 ちなみに天狐は『大罪』・『神狐』・『火焔皇』、そして愛火の持っていたEXランクの『聖魔物』と真名付与回数を1度譲り受けて配合した魔物だ。

 ハクと同じチビッ子兎から配合した結果、金と赤の11尾のお狐様が誕生したって訳だ。ここから最後まで愛火と凛菜の護衛として頑張ってもらうので、一緒に戦うことは無い可能性があるが、いざという時は跳んできてもらうので良いだろう。


 

「それにしても最強勇者復活まで随分静かだったな」



 この3か月間、『原初』と『女神』の動きは無く、崩壊していた世界が王国を除いて再建されてきているくらいには静かな時間だった。

 王国に関しては王都が消し飛んでしまっているので、今も崩壊状態が続いており、ほとんどの人間が公国か帝国へと避難してきている。


 プレイヤーたちに関しては勇者側がある程度保護できているようなので、最終決戦が全土を巻き込むような大戦にならなければ、これ以上の死人は限りなく減らせるはずだ。

 

 俺は『女神』がどこで待っているかすでに把握済みで、最強勇者のほうもどこから情報を手に入れたのか知らないけれど、『原初』の場所を知っているようなので、本当に最終決戦直前まで来ている。



「負けたくないなぁ~」



 『原初』と『女神』の話からするに、過去の勇者や魔王たちは世界攻略に時間と苦労をかけていたようで、俺と最強勇者は面白くないレベルに速くここまで来れた。せっかくこんなにも上手く行ったのなら、最後の最後まで順調に終わらせたい。


 最悪俺が『女神』と同時にダウンしたとしても、『女神』討伐時点で成功になるはずなので、魔王側の人たちは救われるだろう。

 最強勇者も勝ってくれれば、勇者側の人も救われるので、どっちが先に討伐成功しても大丈夫だかなんだかって前言ってた気がしなくもない。


 『原初』も『女神』も遊戯とは言え、互いに勝敗があるらしいので、最後の最後まで粘ってきそうではある。



「『女神』の俺に対する殺意からして、もしかしたら勝敗を捨てて、ただただ俺を苦しませることにフォーカスしてくる可能性もあるんだよなぁ」



 正面からの殴り合いになるだろうか? 『女神』だけと戦うってのは限りなく無い話で、前も出てきていた過去活躍した勇者たちが出撃してくると想定して対策をしている。

 ウチの面々的にはそれぞれが1vs1を出来る展開にするのが好ましく、勇者がたくさん出てきたら薙ぎ払い作戦に行くしかなくなる。


 最強勇者みたいな奴らがワラワラ出てこられたら不味い。

 『女神』と俺が1vs1になる可能性も高く、戦闘力に明らかに差がある場合は、新しく手に入れた『大罪』の切り札を使用しなくてはならないのだが、出来れば使わずに勝てる展開が最高だ。



「『女神』様はどれだけの大罪を重ねてきたのやら……一緒に償おうじゃないか」



 記憶が無かったとは言え、俺はこの世界で人を殺した。

 新米魔王やプレイヤー、そして勇者といった……この世界に巻き込まれてしまった人たちを殺してしまった。

 『女神』が元凶ではあるが、俺だって大罪を犯してしまっている。俺も『女神』も重ねた罪から逃れることは許されない。


 死んでも俺のことが憎たらしくて狂うほど、最高に最低な『大罪の魔王』の力を『女神』様には隅々まで味わってもらえるような最終決戦にしなきゃな。



「ダンジョンこんなに頑張って強固にしたのに……結局は俺たちは出て行かなきゃいけないのかぁ~」



 まだ最終決戦の形がどんなものになるのか不明ではあるが、なんとなく俺たちが出向く感じになっているので、『罪の牢獄』の活躍場面は少ないのが確定してしまっている。

 俺の奥義を使えば呼び出せるのだが、そんなことを許して貰えるだろうか?


 『女神』様は浮かぶお城が大好きっぽいので、結局はお馴染みの天空闘技場みたいなところで戦うことになりそうだなぁ。



「不認知の力が『女神』の能力の一部だとしたら厄介だけど、『七元徳』を元に考えるのも外しちゃいけない気がするな」



 どれだけ考えても最終決戦への不安は消えること無い。

 『女神』がどんな力を使ってくるかなんて、今までにヒントがいくつかあったんだろうが、全て予測するなんて不可能だ。

 俺みたいに手札を隠すのが趣味だった場合は、初見殺しされる可能性が大ではあるが、俺がずっとやってきたので文句が言えない。



「ん~……因果応報って奴なのかな? まぁ……それでも堂々と『魔王』らしさを見せてやろうじゃないか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る